エッセイ ちょっとブレイクしませんか


◆エッセイ「ちょっとブレイクしませんか」


菱電工機エンジニアリング株式会社の社内報にて連載しているエッセイです。

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ちょっとブレイクしませんか


◆第1回 黄昏

イソップ物語に「胃袋と足」という小話がある。



 「胃袋と足が能力のことで言い争った。足が事あるごとに自分の方がずっと強い、腹なんかそっくり運べるほどだ、と言うので、こちらも答えて言うには、『しかしな、お前さん、わたしが栄養を補給してあげなかったら、お前さんたちだって何も運べないのだよ』」

 上司と部下、親会社と子会社、開発と営業、製造元とメンテナンス、経営者と被雇用者、列車の運転と線路の保線、司令官と前線兵士などの関係を振り返る際に、示唆に富む逸話だと思う。そこには上下関係や差別化ではなく、相補的関係が存在することが真実のようだ。
 社会人となって仕事の喜びや苦しみに明け暮れているうちに、誰しも歳をとり、己の職業の終焉を迎える時が訪れる。定年という社会人の終着駅だ。人生の黄昏時は、一抹の虚しさが漂っている。老境に入って秀作を演じているのは、ジェシカ・タンディの「ドライビング・ミス・デージー」、「フライド・グリーン・トマト」と、「怒りの葡萄」以来の名優ヘンリー・フォンダの「黄昏」などが記憶に残る。
 老境の医師の心理を描いた作品では、ベルイマンの「野いちご」の右に出るものはない。半世紀の記憶を再現しながらのロードムービーで、次第にノスタルジアの世界に浸る老人の心の核心をえぐり出している。
 中年期の心理描写といえば、山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」が出色だ。幕藩体制下の下級武士が、奥さんに先立たれて、男手一つで娘と暮らす構図は、奥さんを癌で亡くし、男手一つで育児もしながら世の中に貢献する企業人の姿とだぶる。趣味の登山も音楽もせずに、仕事と育児・家事に全身を傾ける。
 クリント・イーストウッド監督主演の「許されざる者」は、やはり奥さんを亡くして、男手一つで、育児と百姓に精を出す元ガンマンの物語だ。剣にしろ銃にしろ、名手としての昔とった杵柄を発揮して、周囲をあっと思わせる。
 窓際族と揶揄されながら、*捲土重来を密かに目論む、団塊世代にも、勇気と活力を与える作品だ。

*捲土重来・・・一度敗れたり失敗した者が、再び勢いを盛り返してくること



◆第2回 亀と兎

 イソップ物語に「亀と兎」という小話がある。


 「亀と兎が足の速さのことで言い争い、勝負の日時と場所を決めて別れた。さて、兎は生まれつき足が速いので、真剣に走らず、道から離れて眠りこんだが、亀は自分の遅いのを知っているので、弛まず走り続け、兎が横になっている所も通り過ぎて、勝利のゴールに到着した」

  皆さんよくご存知のイソップの代表的な人生訓だ。
 素質も磨かなければ、努力に負けてしまうことが多い。白熱電灯の発明以来、蓄音機や自動車など電気製品の発明王エジソンでさえ、「天才は1%のインスピレーションと99%の発汗である」と語っている。才能があっても努力を怠っては伸びない。才能がなくて努力もしないと救いようがない。なかなか示唆に富む話である。
 精神医学的に見ると、兎は己の才能に自惚れていて、鈍足の亀を馬鹿にしている自己愛型=プライド人間、亀は己の才能のなさを認識し、自己評価は高くないがマイペースで努力を重ねるコツコツ型人間だ。
 今回紹介するのは「クール・ランニング」。ジャマイカのボブスレーチームを描いた作品。ジャマイカといえば、レゲエで知られる常夏の島国。氷上のボブスレーとは縁もゆかりもないが、実際に1988年のカルガリー冬季五輪に初出場し、続くリレハンメル冬季五輪では、14位に食い込んで話題を呼んだ。陸上の短距離選手だったデリースは、五輪選考会で本命視されながら、隣コースの選手ジュニアの転倒に巻き込まれ、夢を絶たれる。でも、脚力が要求されるボブスレーに目をつける。チームに集まったのは、デリースの親友のサンカ、陸上のライバルだったユル、そして転倒事故で二人の五輪出場の夢を絶ったジュニア。素人ばかりだが、猛特訓を繰り返しレーサーらしく成長してゆく。
 厳寒のカルガリーでは、強豪国の選手たちから冷笑を浴び、成績も散々だったが、「強豪のまねじゃなくて、自分たちの流儀でやろうぜ」と開き直り、好成績で予選を突破。チームが得たものは、メダルよりもはるかに大きな「誇り」でした。
 困難をさらりと受け止め、陽気に挑戦していく若者たちの姿が、元気を与えてくれる清清しい後味の作品だ。ちなみに、ジャマイカの自殺率は人口十万あたり0.3で、日本の80分の1。底抜けの楽天性と不屈のチャレンジ精神は私たちに欠けている大切なものを教えている。秋の夜長の週末にでも「クール・ランニング」を見てスカッとしてみませんか。

 

 

◆第3回 バックドラフト

イソップ物語に「毛を刈られる羊」という小話がある。



  「下手な刈り方をされる羊が、刈り手に向かって言うには『毛を取るのなら、もっと浅く切りなさい。肉が欲しいのなら、ひと思いにばっさり殺って、少しずつ苦しめるのは止めておくれ』」

  技術の下手な人々にはぴったりの逸話だ。新米の床屋さんに髭を剃られる時に、皮膚まで切られた体験をお持ちの方もおられるかと思う。
 今回紹介するのは「バックドラフト」(1992年 米国)という作品だ。ハンス・ジマーのBGM音楽の方が有名なほどだが、消防士兄弟の葛藤と日夜火災と戦い続ける男たちの群像を描いた大作ドラマ。
 幼い頃、消火作業中に父の死を目の当たりにした息子ブライアンが、職を転々とした末に故郷のシカゴに新米消防士として戻る。彼が配属された17小隊には兄や父の部下がいた。着任早々、火災現場に向かったブライアンは、そこで兄の英雄的な活躍を目にする。兄のこうした勇敢な行動は、父の死の現場にいなかったという悔恨の念から来ていた。しかし現場に駆けつけた火災調査官は、この1件を放火だと断言した。消防隊に入って幾日か経った頃、ブライアンは兄に負けじと訓練に励むようになる。現場で炎を前に尻込みをするブライアン。消防車の上で彼女といちゃついている間に消防車が出動する場面は、ブライアンの間抜けさを滑稽に描いている。そんな弟を叱咤して、兄は踏み込んでいって少年を救い出す。ブライアンは、放火常習者の助言も得て放火犯を探す。ブライアンは、兄を犯人と疑い火災現場で対決しようとするが、犯人は兄ではなかった。しかしその瞬間爆発が起こり、兄は同僚を助けようとするが、二人とも命を落としてしまう。逃れたブライアンは、父と兄の志を継いで消防士として生涯を捧げることを誓うのだった。
 バグパイプの音楽で死者を葬送する様は荘厳だが、仕事で死んではいけないと生き残った人々に強い誓いの心を刻んでくれる。
 消防士は、わが国でも江戸時代から勇敢な男の象徴だった。9月11日の同時多発テロでも、命を賭しての消防士の活躍が目覚ましかった。
 消防士のような存在にも似たRKEの技術者は、ものづくり日本を支える陰の英雄でもある。どの世界にも生まれつきの達人はいない。ブライアンのような新米消防士がプロ意識に目覚める時、確実に新たな技が伝承されてゆく。気力が沸々と湧いてくるハンス・ジマーの音楽、是非一度鑑賞してみては?



 

◆第4回 ジャイアンツ

イソップ寓話集には「無花果とオリーブ」と題する小話がある。


  「無花果は冬になると葉を落とすので、隣人のオリーブから、丸裸だと罵られた。『私は冬も夏も葉で着飾って、常緑だ。君なんか、たまさか美しいのは夏だけだな』と言うのだ。このように得意がっていると、突如神様の雷が落ちてきて、オリーブを焼き尽くした。無花果にはさわりもしなかった」
 かくして富や幸運を誇る者は、非業の最期を遂げると諭している。


  第1次大戦の終わった頃、東部ヴァージニアの美女レスリー(エリザベス・テイラー)は、たくましい青年ビック(ロック・ハドソン)と知り合い、恋に落ち結婚し、ビックとともにテキサスへ。広い牧場の真中にそびえるヴィクトリア朝風の大邸宅。その家を切り廻しているビックの姉ラズは女丈夫で、弟嫁のレスリーはお客さま扱い。東部と西部の文化の違いを感じ出したレスリーは戸惑ってばかり。ビックの助手格のジェット(ジェームズ・ディーン)は家族同様に待遇されているが、レスリーへの眼差しは特別なものがあった。やがてジェットを保護していたラズは落馬して死亡。ようやく主婦の立場をとり戻したレスリーも、愛するビックとの間の溝は次第に深まる。月日は流れ、夫婦の間には1男2女が生まれた。一方、かねて石油発掘に夢中だったジェットは、遂に金星を射止め、石油成金となって得意げに牧場を去る。後とりの長男ジョーデイにビックは牧場主の後継者を託すが、医者になりたいと申し出る。程なく第2次大戦が勃発。双子の娘の1人ジュデイは結婚し、医科大学を卒えたジョーデイもメキシコ娘ファナと結婚の上、貧しいメキシコ人のため診療所を開く。ビックは怒り心頭だが、レスリーは満足の笑いを洩らす。
クライマックスは、戦争で成金となったジェットが、ホテルの新築祝いに一家を招待してからの一幕。ジェットは双子の娘ジュディに夢中になる。人種差別に立腹したジョーデイはジェットに殴り倒される。なぜかジェットは泥酔してしまう。牧場王のビックも巣立つ子供たちは押さえられない。馬から車や飛行機へと交通手段も変化する近代化に遅れたビックは「失敗だったらしい」と反省するが、レスリーから慰められる。

人間界は、無花果とオリーブほど単純ではなく、栄華と衰退、嫉妬と誇りが錯綜しています。「ジャイアンツ」当時のエリザベス・テイラーはメタボもなくて美しく、ジェームズ・ディーンも魅力的です。

 

 

◆第5回 農夫と息子たち

イソップ寓話集に「農夫と息子たち」という小話がある。



 「死期の迫った農夫が、息子たちを一人前の農夫にしたいと思って、呼び寄せてこう言った。
『倅(せがれ)たちや、わしの葡萄畑の一つには、宝物が隠してあるのだぞ』息子たちは父親の死後、鋤や鍬を手にとって、耕作地を隅から隅まで掘りかえした。すると、宝物はみつからなかった代わりに、葡萄が何倍もの実をつけた」

 新大陸(アメリカ)に渡った若い男女の希望、挫折、勇気、夢を描いた「遥かなる大地へ」という作品がある。
 十九世紀末アイルランドの寒村で、ジョセフ(トム・クルーズ)は父と2人の兄とともに海辺の狭い畑を耕し、貧しい小作農を続けていた。ある日、地主への反乱が起こり、父は騒動に巻き込まれて昇天。葬儀の日、地主の手下に家を焼かれたジョセフは、地主への復習を心に誓う。数日後、地主のクリスティ家に忍び込んだジョセフはクリスティ家の娘シャノン(ニコール・キッドマン)に出会って一目ぼれ。お陰で彼女の婚約者スティーブンと決闘するはめに。決闘の日、ジョセフは突然馬車に乗って現れたシャノンと、駆け落ちのような形で新大陸(アメリカ)に旅立つ。たどりついたボストン港で船を降りるなり、二人は全財産をだまし取られる。それでもめげずにジョセフは工場で働きだす。腕力に目をつけられたジョセフは拳闘(ボクシング)の試合に出て賞金を獲得し一躍人気者に。そんなジョセフに嫉妬したシャノンは踊り子(ダンサー)に。ジョセフは、市会議員バーク主催の拳闘試合の最中、バークがシャノンに手を出すのを見て怒り、バークに殴りかかったため、試合では惨敗。有り金も住み家も奪われたジョセフとシャノンは、ある夜無人の邸宅に忍び込む。不幸にも戻ってきた家主にシャノンは撃たれ、ジョセフは傷ついたシャノンをクリスティ家とともに新大陸(アメリカ)に渡って来ていたスティーブンに引渡す。その八か月後、工事現場で働いていたジョセフは列車の道中オクラホマで、土地を求めて集結した人々と合流し、遂にシャノンと再会する。悪戦苦闘の末、ホース・レースに勝利し、ジョセフはシャノンとともに土地所有者として旗を立てるのだった。
 新大陸(アメリカ)が移民にも寛大で希望に輝いた時代、若い男女も遥かなる大地を求め夢が叶った。21世紀の今日苦労こそが宝物とはいえないが、苦労が報われる時代も確かにあった。



 

◆第6回 プロヴァンスの贈りもの

イソップ物語に「肉を運ぶ犬」という小話がある。


 犬が肉を銜(くわ)えて川を渡っていた。水に写る自分の影を見て、てっきり別の犬がもっと大きな肉を銜えているのだと思って、自分のを捨て、相手のを奪ってやろうと跳びかかったが、両方を失っただけだった。一方は、元々ないので届くわけがなく,他方は川に流されて行ったのだ。


 映画「プロヴァンスの贈りもの」(06年 米国)は、市場原理主義の愚かさをユーモラスに語りかける作品だ。ロンドンで敏腕マネートレーダーとしてリッチな独身生活を送るマックスのもとに、南仏プロヴァンスに住むおじのヘンリーの訃報が届く。子どもの頃、夏休みを共に過ごしたヘンリーおじさんが教えてくれた生きる知恵のお陰で、今日の成功があるのだったが、すっかり都会生活に浮かれて不義理を続けていた。マックスは、叔父の遺産である館(シャトー)と葡萄(ぶどう)園を相続することになり、数十数年ぶりに南仏を訪れる。拝金主義者マックスは最初からお金の算段ばかりで、館は古びて資産価値は予想を遥かに下回っていたために売り払う決意をする。と思った矢先に、おじさんと一緒に葡萄畑の手入れをしてきた農夫の激しい抵抗にあう。ある日おじさんを父親だと名乗る米国娘が現れる。マックスは遺産相続のライバルと勘違いして追い払おうとやっきになる。金に目がくらむと人を見る目も邪になってしまう。そんなマックスも食卓に出るワインの中に、美味なる一品があることが気にかかっていた。二束三文の価値しかないと鑑定人に宣告された葡萄畑の一角に石を敷いた葡萄こそがおじさんが大切に守り続けた幻のワインのルーツであることを農夫から教えられ、マックスは心を改める。ほのぼのとした南仏の田舎町を舞台にして、ヘンリーおじさんの本当の遺産に気がついた時、拝金主義を捨てたマックスに平穏で幸せな日々が訪れるのであった。マックスを演じたのは「グラディエーター」でオスカーを獲得したラッセル・クロウ。

 このイソップの小話は「二兎を追う者一兎をも得ず」の諺にも相通じていて、世俗の欲望を追いかけてばかりではいけないと説いています。事実ギャンブルで大勝ちしても心はすさんで、残るのは虚しさばかり。マネーゲームでVDT端末の数字ばかりを眺める生活と、のんびりした田舎の暮らし、皆さん老後はどちらを選択されますか。荒野のような心理状態から脱するヒントも与える印象的映画でした。

 

 

◆第7回 守銭奴

イソップ物語に「守銭奴」という小話がある。



 守銭奴が全財産を金(かね)に換え、金塊を買って、それを城壁の前に埋めると、しょっ中出かけて行っては検分していた。近くに住む職人が男の足繁く通うことに気づき、事の次第を推し量って、男が立ち去った後に金(きん)を盗みとった。男は次にやって来ると、そこが空っぽになっているので、泣きわめき髪を毟(むし)った。身も世もあらず嘆いているのを人が見て、訳を知って言うには、「おまえさん、悲しむことはない。同じ場所に石を埋め、金(きん)だと思うことだ。有る時にも使わなかったのだから」

 映画「マルサの女」(87年日本)は、故伊丹十三とその奥さん宮本信子の見事な合作だ。
 税務調査官の亮子は、脱税を徹底的に調べるやり手だった。ある日、彼女は一軒のラブホテルに目をつけ、そこのオーナー権藤が売上金をごまかしているのではないかと調査を始める。権藤には内縁の妻、光子がいた。そんな時、亮子は国税局査察部に抜擢され、マルサの女としての調査経験を積み、上司の花村と組んで権藤を調べることに。 ある時、権藤の元愛人・和江から彼の今の愛人が毎朝捨てるゴミの袋を調べろとタレコミがあった。やっとのことで証拠の書類を見つけ、遂に権藤邸のガサ入れが決まった。亮子が邸に入ったが、証拠は何も出て来なかった。花村は権藤に質問し、亮子に眼の動きを追えと命令する。そして、本の中をしらみつぶしに探すが徒労に終わる。疲れた亮子が立ちあがって、体を伸ばし本棚にぶつかった途端、壁が動き奥の隠し部屋が現われ大金が見つかった。その頃、久美子の部屋では口紅に隠された多くの印鑑が発見され、銀行でも架空名義が見つかった。権藤から貸し金庫の鍵は光子が持っていると花村は聞かされ、光子から鍵を受け取る。突然、亮子が以前忘れたハンカチを出した権藤は、ナイフで指を傷つけた血でハンカチに残りの貸し金庫の暗号を記して渡し、マルサの女は勝利するのである。

 イソップの小話「守銭奴」は現代人の守銭奴映画にも通じる。お金は貯めるためにあるものではない。食欲や睡眠欲は上限があるけれども、名誉欲と金銭欲は限りがない。しかし、金は天下の回りもの、途中で堆積するよりは、回り回って使われる方が生かされる。大金を持って棺桶に入るわけにも行きません。消費と貯蓄のバランス、老後の心配もありますが、皆さんはどうお考えでしょうか。



 

◆第8回 塩を運ぶ驢馬(ろば)

イソップ物語に「塩を運ぶ驢馬(ろば)」という小話がある。


 塩を山のように担がされた驢馬(ろば)が川を渡っていた。足を滑らせ、水にはまったら、塩が溶け出して、身軽になって立ち上がった。これは嬉しかったが、その後、海綿を担がされて川にさしかかった時のこと、また水にはまったなら、荷を軽くして起き上がれるだろうと考えた。そこで、わざと足を滑らせたのだが、その結果は、海綿が水を吸い込んだため、立ち上がることもできず、その場で溺れてしまったのだ。


 映画「アイリスへの手紙」(1990年 米国)は、恥も外聞も捨てて、自らの弱点を克服する地味な作品だ。夫に先立たれたアイリス(ジェーン・フォンダ)は、パン工場に勤めながら、二人の子供、それに妹のシャロンと、その夫で失業中のジョーまで養っていた。貧困にあえぐ家の中は暗い雰囲気に満ちていた。ある日アイリスは、工場からの帰り道に泥棒に給料を奪われるが、その時彼女を助けようとしてくれた工場のコック、スタンリー(デ・ニーロ)と知りあい、次第に親しくなってゆく。ある日、スタンリーは、文字が読めないことが発覚し、それが原因で解雇され無収入となってしまう。スタンリーは、やむなく年老いた父を老人ホームへ入れるが、数週間後、父は帰らぬ人となった。ある日アイリスは、父の死で自責の念にさいなまれるスタンリーから、字を教えてほしいと頼まれる。しかし、地図を片手に標識を頼りに目的地に向かうという野外学習に失敗したスタンリーは、字を覚えることを諦めようとする。心を痛めたアイリスは彼の家を訪ねると、そこには彼の発明品があった。彼女はスタンリーの才能をほめるのだ。その一言で彼は再び勉強への意欲を取り戻す。やがてスタンリーが読み書きを自由にできるようになった時、ふたりは愛によって結ばれるのだった。

 欠点や苦手なことを隠そうとするのは人の常。才能に恵まれた人は、努力を怠り思わぬ落とし穴に陥ることもある。事業仕分けで追いつめられる天下りは、「塩を運ぶ驢馬(ろば)」の逸話に一脈通じるものがある。浅知恵の驢馬(ろば)とは正反対に、映画「アイリスへの手紙」は、誠実に生きることの素晴らしさを教えている。貴方は、ストレスに果敢に挑戦しますか?それとも巧みに回避しますか?



 

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