大動脈弁狭窄症について

大動脈弁狭窄症について

 大動脈弁狭窄症とは心臓弁膜症のひとつで、大動脈弁の開きが悪くなり、血液の流れが妨げられてしまう疾患です。

 大動脈弁とは、全身に血液を送り出す左心室の出口にある弁で、半月形をした膜(弁尖:べんせん)が3枚あわさって出来ています。大動脈弁狭窄症とは、この大動脈弁の開放が制限されて狭くなった状態を指します。

 軽度のうちはほとんど自覚症状がありませんが、病状が進むと動悸や息切れ、疲れやすさなどの症状が現れ、重症になると失神を起こしたり突然死に至る可能性もあります。


画像提供:エドワーズライフサイエンス株式会社

大動脈弁狭窄症の原因

 大動脈弁狭窄症には主に、生まれつき弁が2枚しかない先天性2尖弁、加齢・動脈硬化による加齢性大動脈弁狭窄症、リウマチ熱によるリウマチ性大動脈弁狭窄症があります。

大動脈弁狭窄症の症状について

 大動脈弁狭窄があっても無症状のことが多く、狭窄の程度が進み心臓の余力がなくなって初めて様々な症状が出るようになります。無症状で発見される場合としては、健康診断の心電図を契機として発見されたり、心臓以外の手術の術前検査で発見される場合などがあります。
 代表的な症状としては、体を動かした時に胸の痛みを感じる狭心症、突然意識を失ってしまう失神、体動時の息苦しさや両足のむくみなどの心不全症状などがあります。こうした症状が出現した場合には、その後の経過は非常に急速で、数年以内に命を落とすことも多いとされており、早急な対応が必要です。また突然死を起こすこともあり、慎重な経過観察と適切なタイミングでの治療介入が重要です。
 そのため、重症の大動脈弁狭窄症で上記のような自覚症状が出現した場合にはもちろん治療が必要ですし、無症状の時期であっても弁の状態が重症で今後の進行が予想される場合には、治療が必要と判断されることもあります。

検査方法について

 診断は主に、心臓超音波検査によって行われます。心臓超音波検査は体の表面から行う検査で患者さんの負担も少なく、繰り返し行うことができるため、大動脈弁狭窄症の経時的な進行を知ることも可能です。心臓超音波検査によって観察する項目としては、弁尖の数、大動脈弁の動きや石灰化・癒着の程度、実際に弁が開くときの面積、弁を通過する血流速度、左心室の収縮する力や左室肥大の程度、大動脈弁以外の弁膜症の有無など多岐にわたり、これらの情報を統合して大動脈弁狭窄症の重症度を判断します。 また、より詳細に大動脈弁の状態を観察したい場合には、胃カメラと同じ要領で超音波の端子を食道内に入れて心臓の裏側から観察を行う、経食道超音波検査が行われることもあります。

治療について

 大動脈弁狭窄症の治療の基本は大動脈弁置換術、つまり手術治療です。胸を切開して心臓を露出し、狭窄している大動脈弁を切り取って、新しい弁に取り替えます。取り替える弁(人工弁)には、大きく分けて生体弁と機械弁があり、それぞれに長所と短所があることから、両者を使い分けて使用します。


機械弁(左)と生体弁(右)

 年齢や合併症のために外科的手術が適応とならない、もしくは高リスクな患者さんに対しては、バルーン大動脈弁形成術が適応となる場合があります。しかしこの治療法は一時的に症状や状態が改善する場合があるものの、この治療法単独でその後手術をしないと、予後を改善しないことが分かっています。

 そこで近年経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)が開発されましたこの治療法は、カテーテルを用いて足の動脈あるいは胸壁から直接心臓に人工弁を挿入し、風船を膨らませることで埋め込みを行うものです。胸を切開する従来の心臓手術よりも体にかかる負担が少ないため、年齢や合併症などのために、これまで手術を断念されていた患者さんに対しても治療が可能となります。ヨーロッパでは2007年にCEマークを取得、アメリカでは2011年にFDAの認可を受けており、日本でも2013年中にPMDA認可、保険償還が見込まれており、今後大変期待が持てる治療法です。