研究トピックス

  1. 閉塞性動脈硬化症患者の”かくれ脳梗塞”と生命予後および下肢予後
  2. Geriatric Nutritional Risk Indexは閉塞性動脈硬化症の生命および下肢予後の正確な予測因子である
  3. 間歇性跛行患者の生命予後と下肢予後
  4. 腸骨動脈病変に対するステント治療の15年成績と生命予後は?
  5. 閉塞性動脈硬化症における心臓弁膜症の有病率と危険因子は?
  6. 閉塞性動脈硬化症の狭心症と心筋梗塞の合併頻度と危険因子は?
  7. 閉塞性動脈硬化症における重症虚血肢と間歇性跛行の危険因子と病変部位の相違は?
  8. 閉塞性動脈硬化症の生命予後と肥満パラドックス
  9. 女性と男性の閉塞性動脈硬化症の違いは?
  10. 閉塞性動脈硬化症患者さんのかくれ脳梗塞と頸動脈狭窄
  11. 閉塞性動脈硬化症における腎動脈狭窄および腎機能障害の頻度と危険因子
  12. 腸骨動脈病変に対する血管内治療の10年開存率と再狭窄因子

1.閉塞性動脈硬化症患者の”かくれ脳梗塞”と生命予後および下肢予後

- 閉塞性動脈硬化症患者のかくれ脳梗塞は、その後の生命予後、脳梗塞発生、および下肢予後の予測因子である -

脳梗塞は閉塞性動脈硬化症(PAD)患者さんの下肢の病変が悪化する重要な危険因子のひとつです。しかし、PAD患者さんのかくれ脳梗塞の有無と生命予後および下肢予後の詳細な追跡報告はありません。今回、PAD患者さんの脳梗塞の有無と生命予後および下肢の予後を検討しました。

対象は新規のPAD患者さん932例です。これらの患者さんの生存率(OS: overall survival)、 脳血管イベント発生率(CVE; cerebrovascular events)、心血管イベント発生率(MACE: major adverse cardiovascular events)、心血管および下肢イベント発生率(MACLE: major adverse cardiovascular and limb events)と来院時の脳梗塞の有無および他の危険因子の関連について検討しました。

平均年齢は72.4±9.6歳、観察期間の中央値は5年5カ月でした。頭部CT検査による脳梗塞の合併頻度は58%(43%は1.5cm以下のラクナ梗塞)でありました。全患者さんでの生存率は、3年:82%、5年:77%、10年:46%でした。脳梗塞合併群では生命予後は有意に低値でした。死因は心血管死:37%、脳血管死:17%、癌:19%、肺炎:15%、その他:12%でした。

Cox多変量解析による検討では、生存率は脳梗塞の有無、年齢、Ankle brachial pressure index (ABI)、重症虚血肢(CLI)、腎機能、およびアルブミン値が予後規定因子でした。脳血管イベント発生率は、受診時の脳梗塞の有無と年齢、ABI、CLI、心房細動、冠動脈疾患、腎機能、およびアルブミン値が予後規定因子でした。MACEおよびMACLEの検討では、脳梗塞の有無と年齢、ABI、CLI、心房細動、冠動脈疾患、腎機能、およびアルブミン値と有意な関係を認めました。スタチン投与はMACEおよびMACLEを有意に改善し、心房細動はMACLEを有意に悪化しました。

閉塞性動脈硬化症における受診時の脳梗塞の有無は、全死亡率、 脳血管イベント発生率、MACEおよびMACLEを有意に悪化させる予測因子でした

Kumakura H, Kanai H, Matsuo Y, Iwasaki T, Ichikawa S. Asymptomatic Cerebral Infarction is a Predictor of Long-Term Survival and Vascular or Limb Events in Peripheral Arterial Disease. Eur Heart J Qual Care Clin Outcomes 2019;5:43-50.論文PDF



無症候性脳梗塞合併とPADの遠隔期生存率

無症候性脳梗塞合併とPADの脳梗塞回避率

脳梗塞合併の有無による心血管イベント(MACE)発生率と心血管および下肢イベント(MACLE)発生率比

2.Geriatric Nutritional Risk Indexは閉塞性動脈硬化症の生命および下肢予後の正確な予測因子である

- 閉塞性動脈硬化症患者の栄養状態の指標として、Geriatric Nutritional Risk Index (GNRI)は、アルブミン値やbody mass index (BMI)よりも正確な予後の予測因子である -

【目的】近年、栄養状態の指標として、Geriatric Nutritional Risk Index (GNRI)が優れた指標として注目されています。閉塞性動脈硬化症(PAD)患者の栄養状態として、GNRIと生命および下肢予後の関係について長期追跡報告はありません。今回我々は、GNRI とPAD患者の生命および下肢予後の関連を検討しました。

【方法】PAD患者1219例を対象としました。これらの患者のoverall survival (OS)、 major adverse cardiovascular events (MACE)、major adverse cardiovascular and limb events (MACLE)とGNRI等の危険因子との関連について検討しました。GNRI = 14.89 × serum albumin (g/dL) + 41.7 × (present body weight / ideal body weight)より算出しはました。さらにGNRI値よりG0:>98, no risk; G1: 92ー98, low risk; G2: 82ー91, moderate risk; G3:<82, high riskの4群に分けました。

【結果】平均年齢は72.6±9.9歳、観察期間の中央値は73カ月でした。死因は心血管死36%、脳血管死16%、癌20%、肺炎15%、その他13%でした。5年生存率は、G0: 80.8%、G1: 62.0%、G2: 40.0%、 G3:23.3%と有意にGNRI低値群で予後不良でした。Cox多変量解析による検討で、生存率はGNRI、年齢、critical limb ischemia (CLI)、糖尿病、eGFR、CRPおよびスタチン投与が予後規定因子でした。MACEおよびMACLEの検討では、GNRI低値群で有意にイベント発生率が高く、GNRI、年齢、ABI、冠動脈疾患、糖尿病、eGFR、CRPが予後規定因子でした。スタチン投与はMACEおよびMACLEを有意に改善しました。GNRI値は、BMIや血中アルブミン値単独よりも有意な予後規定因子でした。

【結語】PAD患者の予後は不良であり、栄養状態の指標であるGNRI値は、OS、MACEおよびMACLEの正確な予後規定因子でした。

Matsuo Y, Kumakura H, Kanai H, Iwasaki T, Ichikawa S. The Geriatric Nutritional Risk Index Predicts Long-Term Survival and Cardiovascular or Limb Events in Peripheral Arterial Disease. J Atheroscler Thromb 2020;27:134-143.論文PDF



GNRI値 と生存率の関係

生存率を規定するGNRIと各種危険因子

GNRI値による心血管イベント(MACE)発生率と心血管および下肢イベント(MACLE)発生率

3.間歇性跛行患者の生命予後と下肢予後

- 間歇性跛行患者が、重症虚血肢となる頻度は1.1%/5年と極めて低値 -

間歇性跛行(IC)患者の生命予後と下肢予後の詳細な追跡報告はありません。今回、IC患者の生命予後とICから重症虚血肢(CLI)等に悪化する下肢予後等を検討しました。

対象は新規IC患者1107例です。これらの患者の生存率 (OS:overall survival)、 major adverse cardiovascular events (MACE)、major adverse cardiovascular and limb events (MACLE)、および下肢予後と危険因子との関連について検討しました。

平均年齢は71.4±9.4歳、観察期間の中央値は5年4カ月でした。全例に3ヶ月の運動薬物療法施行後に、37%はそのまま運動薬物療法を継続し、63%に血行再建術を行いました。死因は心血管死:38%、脳血管死:22%、癌:22%、肺炎:14%、その他:10%でした。生存率は、5年:73%、10年:48%、15年:28%、20年:15%でした。Cox多変量解析による検討では、OSは年齢、BMI、糖尿病、透析、CRP値およびスタチン投与が予後規定因子でした。MACEおよびMACLEの検討では、年齢、ABI、BMI、冠動脈疾患、糖尿病、透析、CRP値およびスタチン投与と有意な関係を認めました。血行再建術は運動薬物療法と比較しOSおよびMACEは同等で、大腿動脈の血行再建はMACLE発生が高率となりました。下肢予後は、80%は症状に変化なく、19%で症状の悪化があり再治療を要しました。ICからCLIに悪化した症例は15例(1.1%/ 5年)で、糖尿病と透析がCLIへの悪化の有意な危険因子で、脳梗塞既往と大腿動脈血行再建がCLIの危険因子となる傾向がありました。

閉塞性動脈硬化症におけるIC患者の予後は不良で、糖尿病と透析合併症例ではCLIとなる症例も認められましたが、頻度は1.1%/ 5年と極めて低値でした。

Kumakura H, Kanai H, Hojo Y, Iwasaki T, Ichikawa S. Long-term survival and fate of the leg in de novo intermittent claudication. Eur Heart J Qual Care Clin Outcomes. 2017;3(3):208-215. 論文PDF



新規間歇性跛行患者

間歇性跛行患者が重症虚血肢となる危険因子ハザード比

4.腸骨動脈病変に対するステント治療の15年成績と生命予後は?

ー血管内視鏡(IVUS)を使用したステント治療による再狭窄因子ー


 腸骨動脈病変に対してステント治療を施行した症例の15年成績と生命予後について検討しました。
 PADの腸骨動脈病変に対してIVUSガイド下にてステント留置術を施行した455例507病変について長期開存率を比較するとともに生命予後を検討しました。
 初期成功率はA型:99.6%、B型:97.0%、C型:98.1%、D型:91.1%とD型が低値でした。開存率はA/B型が5年:88%、10年:83%、15年:76%、C/D型が5年:83%、10年:83%、15年:70%と2群間に有意差はありませんでした。再狭窄因子の解析では、ステント内腔面積、抗血小板剤の自己中断、ステント内への血栓突出、石灰化病変が有意な因子でした。全症例の生存率は5年:82%、10年:56%、15年:40%であり、A/B型は5年:83%、10年:58%、15年:42%、C/D型が5年:76%、10年:47%、15年:23%とC/D群で生存率が低い傾向でした。
 腸骨動脈病変に対するステント留置術の遠隔期開存率は良好で、TASC-II分類では開存率に有意差はありませんでしたが、C/D群で生存率が低い傾向でした。

 

Kumakura H, Kanai H, Araki Y, Hojo Y, Iwasaki T, Ichikawa S. 15-Year Patency and Life Expectancy After Primary Stenting Guided by Intravascular Ultrasound for Iliac Artery Lesions in Peripheral Arterial Disease. JACC Cardiovasc Interv 2015; 8: 1893-901. 論文PDF



TASC-II分類別開存率



5.閉塞性動脈硬化症における心臓弁膜症の有病率と危険因子は?

ーリポプロテイン(a) (Lipoprotein(a):Lp(a))は大動脈弁狭窄症、僧帽弁狭窄症の危険因子であるー


  閉塞性動脈硬化症(PAD)患者861例に対して心エコー検査を行い、各種危険因子との関係を検討しました。 患者の平均年齢は73歳で、弁膜症疾患、虚血性心疾患、高血圧性心疾患の有病率はそれぞれ43.6%、18.9%、 17.7%でした。大動脈弁閉鎖不全症(AR)、僧帽弁閉鎖不全症(MR)、大動脈弁狭窄症(AS)、僧帽弁狭窄症(MS)、三尖弁閉鎖不全症(TR)の有病率はそれぞれ26.8%、 19.7%、5.9%、1.3%、9.4%でした。
 弁膜症の重症度と危険因子の関連について重回帰分析を行うと、ARは年齢と正相関を、アルブミン、eGFRと負の相関を示しました。MRは年齢と正相関を、eGFRと負の相関を示しました。ASはLp(a)、年齢と正相関を、eGFRと負の相関を示しました。MSはLp(a)および女性と正相関を示しました。Lp(a)はAS患者で非AS患者より高く、MS患者でも非MS患者と比べ高値でした。また、Lp(a)はLDLコレステロール、hs-CRPと有意な関連が認められました。

 

Hojo Y, Kumakura H, Kanai H, Iwasaki T, Ichikawa S, Kurabayashi M. Lipoprotein(a) is a risk factor for aortic and mitral valvular stenosis in peripheral arterial disease. Eur Heart J Cardiovasc Imaging 2016; 17: 492-7. 論文PDF



各種心臓弁膜症の合併頻度と重症度



6.閉塞性動脈硬化症の狭心症と心筋梗塞の合併頻度と危険因子は?

ー高感度CRP、Lipoprotein(a)、 ホモシステイン値との関係ー


 閉塞性動脈硬化症の患者さんの死因は心血管系の死亡が半数を占めます。そこで、閉塞性動脈硬化症451例について冠動脈疾患合併の頻度と危険因子について検討しました。狭心症や心筋梗塞等の冠動脈疾患既往を21%に認めました。冠動脈造影では1枝病変:25.9%、2枝病変:13.5%、3枝または主幹部病変:10.6%に認め、総計では50.1%に有意狭窄病変を認めました。多重解析では冠動脈病変は糖尿病、高感度CRP (high-sensitivity C-reactive protein)、lipoprotein(a)、 ホモシステイン(homocysteine)値と関連していました。
 閉塞性動脈硬化症患者さんの既往あるいは冠動脈疾患の合併率は56%と極めて高く、糖尿病、高感度CRP、lipoprotein(a)、 ホモシステインの高値が冠動脈疾患合併と関連していました。

 

Kumakura H, Fujita K, Kanai H, Araki Y, et al. High-sensitivity C-reactive Protein, Lipoprotein(a) and Homocysteine are Risk Factors for Coronary Artery Disease in Japanese Patients with Peripheral Arterial Disease. J Atheroscler Thromb 2015;22:344-54. 論文PDF



冠動脈病変の既往歴と病変の有無

冠動脈狭窄とその危険因子の解析


7.閉塞性動脈硬化症における重症虚血肢と間歇性跛行の危険因子と病変部位の相違は?

−BNP:脳性ナトリウム利尿ペプチド値の関連−


 当院のデータでは歩くと足に痛みが起こる間歇性跛行(Intermittent Claudication :IC)の状態から潰瘍や壊疽(重症虚血肢 Critical Limb Ischemia :CLI)となる患者さんは5年間に1.3%と極めて少なく、CLIはICとは発症背景が異なる可能性があります。そこで、CLIとICの危険因子および病変部位の相違について比較検討しました。
 閉塞性動脈硬化症患者さん817例(CLI:185例、IC:632例)について調査し、CLIとICの危険因子と病変部位を比較した。CLIはICと比較し糖尿病、脳梗塞既往、女性の頻度が高く高齢だった。血中brain natriuretic peptide (BNP:脳性ナトリウム利尿ペプチド)値はCLIではICより高かった。ホモシンテイン、フィブリノーゲン値はCLIで高く、アルブミンとeGFRはCLIでICより低かった(図1)。多重解析では、BNP、糖尿病、女性、低アルブミンとbody mass index (BMI)がCLIと関連していた(図2)。病変部位別検討では、CLIは腸骨動脈病変が少なく、大腿と膝下病変が多かった(図3)。膝下病変のCLI合併のオッズ比は4.33倍であった。病変部位と危険因子の関係では、腸骨動脈病変は喫煙、低HDLコレステロールと、大腿動脈病変は年齢、BMI、高血圧と、膝下動脈は糖尿病、年齢、BMI、女性と関連していた。BNP濃度は膝下血管病変数に正相関していた。
 閉塞性動脈硬化症におけるCLIはICに比較しBNPが高値で糖尿病と女性の頻度が高く、低アルブミンおよび低BMIの状態であり、病変部位では大腿および膝下病変数と関連していた。

 

Kumakura H, Kanai H, Araki Y, Hojo Y, Kasama S, Sumino H, et al. Differences in Brain Natriuretic Peptide and Other Factors between Japanese Peripheral Arterial Disease Patients with Critical Limb Ischemia and Intermittent Claudication. J Atheroscler Thromb. 2013;20:798-806. 論文PDF



CLIとICの危険因子の比較

CLIと危険因子の関係

CLIとICの病変部位


8.閉塞性動脈硬化症の生命予後と肥満パラドックス

 日本では、閉塞性動脈硬化症の長期の生存率についての研究はほとんどありません。そこで、閉塞性動脈硬化症患者さんの長期生存率と各種危険因子、特にbody mass index (BMI: .体重/身長2)と腎機能の関係について調査をしたところ、死因は心疾患35%、脳血管疾患18%、悪性腫瘍19%、肺炎13%の順で心血管系死亡が半数を占める結果となりました。全患者の生存率は5年62%、10年37%でした。歩くと足の痛みが出現する跛行患者の生存率は5年で70%、10年で44%であるのに対し、潰瘍や壊疽などの重症虚血肢の生存率は5年で27%、10年で12%と良くありませんでした。生命予後に関連する因子としては、年齢、虚血肢重症度、BMI、腎機能、糖尿病、脳梗塞で関連が認められました。 肥満は循環器疾患の危険因子とされていますが、近年心不全や動脈硬化症において、肥満患者の予後が良いという報告が欧米を中心に増えており、肥満パラドックスとして議論を呼んでいます。今回の調査でも痩せすぎの人は生命予後が悪く、やや太めのBMIが24.0の人が最も生存率が高いという結果になりました。しかし、さらにBMIが高い人の生存率は低下するので、太りすぎはやはり危険因子となります。



Kumakura H, Kanai H, Aizaki M, Mitsui K, Araki Y, Kasama S, Iwasaki T, Ichikawa S. The influence of the obesity paradox and chronic kidney disease on long-term survival in a Japanese cohort with peripheral arterial disease. J Vasc Surg 2010 Jul;52(1):110-7. 論文PDF



BMI比

BMI比


9.女性と男性の閉塞性動脈硬化症の違いは?

 近年、各種の病気や治療の性差(性差医療)が注目されていますが、日本における閉塞性動脈硬化症患者の症状の特徴や危険因子における性差は明かではありません。 当院における閉塞性動脈硬化症患者さん730人(女性148人、男性582人)の病状と危険因子について調査したところ、女性の平均年齢は73.6歳と、男性(70.9 歳)より高く、75歳以上の患者さんの比率も女性の方が高くなっていました。女性は男性と比較し、重症となってから受診する比率が高く糖尿病の頻度が高く、喫煙と飲酒率は女性の方が低い結果となりました。総コレステロールとLDLコレステロール値は、女性が男性より高くなっていました。重症度は、年齢、糖尿病、脳梗塞、女性と関連しており、下肢切断は女性で高い傾向がありました。血管の病変部別では、女性は腸骨動脈病変で受診する比率が少なく、膝下病変が多く見受けられました。 女性の閉塞性動脈硬化症は、高齢で潰瘍や壊疽などの重症虚血肢の頻度が高く、危険因子も多く存在しました。血管の病変部位別では、女性では膝下病変が多いことが重症度と関連すると推定されます。



Kumakura H, Kanai H, Araki Y, Kasama S, Sumino H, Ito T, Iwasaki T, Takayama Y, Ichikawa S, Fujita K, Nakashima K, Minami K. Sex-related differences in Japanese patients with peripheral arterial disease. Atherosclerosis 2011 Aug 27;219:846-50. 論文PDF






10.閉塞性動脈硬化症患者さんのかくれ脳梗塞と頸動脈狭窄

 閉塞性動脈硬化症は全身の動脈硬化症の一部としてとらえることができます。閉塞性動脈硬化症患者さんと年齢と性別を一致させた健常者における、脳梗塞と頸動脈狭窄の合併頻度を比較したところ脳梗塞の合併頻度は閉塞性動脈硬化症では56.0%だったのに対し、健常者では23.2%と閉塞性動脈硬化症では2.4倍高い結果となりました。特にラクナ梗塞という1.5cm以下の小さな脳梗塞が多くありました。同様に頸動脈狭窄も、閉塞性動脈硬化症では17.3%に対し、健常者では3.8%と閉塞性動脈硬化症で4.6倍高い結果となりました。 閉塞性動脈硬化症では全身の動脈硬化が進行しており、かくれ脳梗塞や頸動脈狭窄の頻度も極めて高いため、脳や頸動脈の検査も重要です。



Araki Y, Kumakura H, Kanai H, Kasama S, Sumino H, Ichikawa A, Ito T, Iwasaki T, Takayama Y, Ichikawa S, Fujita K, Nakashima K, Minami K, Kurabayashi M. Prevalence and risk factors for cerebral infarction and carotid artery stenosis in peripheral arterial disease. Atherosclerosis 2012 Aug;223(2):473-7. 論文PDF





11. 閉塞性動脈硬化症における腎動脈狭窄および腎機能障害の頻度と危険因子

- 尿中マイクロアルブミン値は全身の動脈硬化の指標である -

閉塞性動脈硬化症患者における腎動脈狭窄の頻度についての詳しい報告はありません。そこで腎動脈狭窄や腎機能障害の頻度と危険因子の関連について検討しました。

血管内治療を受けた閉塞性動脈硬化症410症例 (平均71±9歳、非透析患者) について調査しました。腎動脈狭窄の有無は血管造影にて評価しました。腎機能の指標として尿中マイクロアルブミン値とestimated glomerular filtration rate (eGFR)にて評価しました。

狭窄率50%以上の腎動脈狭窄を22.9%に、75%以上の腎動脈狭窄を11.0%に認めました。尿中マイクロアルブミン値の異常 (≧30mg/g ・Cr) を25.1%に、eGFR<60ml/minの腎障害を60.7%に認めました。腎動脈狭窄と危険因子の関係では、50%以上の腎動脈狭窄症例では重症虚血肢、冠動脈疾患、高血圧と関連がみられました。75%以上の腎動脈狭窄症例では高血圧との関連がみられました。eGFRとの関係では年齢、尿酸値、冠動脈疾患と負の相関がみられ、尿中マイクロアルブミン値はLDLコレステロール値、重症虚血肢、年齢、冠動脈疾患、糖尿病との関連がみられました。

閉塞性動脈硬化症患者は高率に腎動脈狭窄と腎機能障害を合併していました。重症虚血肢、冠動脈疾患および高血圧は腎動脈狭窄の主要な危険因子でした。高尿酸血症、高LDLコレステロール、糖尿病は、閉塞性動脈硬化症における腎機能障害合併の危険因子で、尿中アルブミン値は全身動脈硬化の程度を示す簡単かつ極めて有用な指標です。

Endo M, Kumakura H, Kanai H, Araki Y, Kasama S, Sumino H, Ichikawa S and Kurabayashi M. Prevalence and risk factors for renal artery stenosis and chronic kidney disease in Japanese patients with peripheral arterial disease. Hypertens Res. 2010;33:911-5. 論文PDF

腎動脈狭窄(RAS)、尿中アルブミン (MA) と腎機能障害の頻度

腎動脈狭窄(>50%) と危険因子の関係 尿中アルブミン値と危険因子の関係


12.腸骨動脈病変に対する血管内治療の10年開存率と再狭窄因子

- バルーン拡張術とステント留置術の比較 -

閉塞性動脈硬化症(PAD)の腸骨動脈病変における血管内治療(EVT)の遠隔成績、特にバルーン治療とステント治療群を比較し、再狭窄因子についてもTASC分類をもとに検討しました。

対象は腸骨動脈に70%以上の狭窄病変を認め、間歇性跛行以上の症状を有しEVTを施行したPAD 436例487病変 (TASC-II, Type-A:275, B:115, C:37, D:60) です。Type-C/D病変では総大腿動脈に高度狭窄が及ぶ症例、長区域大動脈閉塞、腹部動脈瘤の合併例は除外しました。

初期成功率は95.7%で、不成功例中13病変はワイヤー不通過例でした。遠隔期開存率は、バルーン拡張群 (178病変)では3年: 67%、5年: 54%、10年: 50%であり、ステント群 (296病変)では3年: 88%、5年: 82%、10年: 75% と、ステント群で有意に良好でした。バルーン拡張群ではType-C/D群の遠隔期開存率はType-A/B 群に比較し有意に低値でしたが、ステント群ではType-C/D とType-A/B間に差を認めませんでした。Cox の単変量解析にて遠隔期開存に有意差を認めた因子は、TASC分類、病変長、術前および残存狭窄率、ステント使用の有無でした。これらの因子のうちCoxの多変量解析ではステント使用と残存狭窄率のみが有意に再狭窄を規定する因子でした。

腸骨動脈病変では、ステントの使用と低残存狭窄率が遠隔期開存率の向上と関連し、ステントを使用すれば、Type-C/D 等の長区域病変の遠隔期開存は良好でした。 論文PDF

Koizumi A, Kumakura H, Kanai H, Araki Y, Kasama S, Sumino H, Ichikawa S and Kurabayashi M. Ten-year patency and factors causing restenosis after endovascular treatment of iliac artery lesions. Circ J. 2009;73:860-6.

バルーン治療のみ

ステント植込み術 ステント対バルーン治療の開存率の比較