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治療

生物学的製剤治療の経済的負担軽減の提唱

経済的負担軽減の提唱

現在、日本での生物学的製剤には高額な療養費が必要です。現実的な対策として、生物学的製剤の10分の1の費用ですむMTX、SASP、hydroxychloroquine(HCQ、日本では適応がないのでブシラミン)の3薬投与が患者さんの金額的負担を軽減する1つの方法としてあってもよいとの考えです。

・薬価ではなく保険システムの違い

外来で「生物学的製剤がよいのはわかるが、お金がないから使えずに苦しい」との患者さんからの声を多く聞きます。そこで、日本で高額な療養費が必要な理由を調べました。
生物学的製剤治療の費用負担は3割で年間約45〜50万円。国民の平均年収は556万円だが、平均年収以下の国民が60%以上であり、それを200万〜400万円と考えると年収の6分の1になります。
しかし、生物学的製剤4種類の薬価を国際比較すると、日本ではINFが若干高いだけでエタネルセプトをはじめ他の生物学的製剤はむしろ低く設定されており、価格よりも保険制度の違いが問題になっていることがわかりました。日本では平均15.5%の自己負担金(0〜3割の平均)が必要となりますが、英国では1,800円を除く医療費が無料になります。フランスでは医療費の自己負担額は5%以内に抑えられ、ドイツでは年収の1%、米国では加入している保険の種類によりますが、応分の窓口負担が必要になります(一般には10〜30%)。しかし、生物学的製剤のような高価商品については、各製薬会社が独自にキャンペーンを行い、6か月までは薬剤費が無料になるなど、患者さんが生物学的製剤を使いやすいような割引制度が設けられています。

・経済的負担を軽減する7つの工夫

日本の生物学的製剤治療患者さんの経済的負担を軽減する工夫として、下記の7項目を示します。
1.社会福祉制度の利用(身体障害者福祉制度・高額療養費償還)
2.確定申告による税控除
3.寛解症例における薬剤の中止(INF)
4.ジェネリック医薬品の利用
5.エタネルセプトの週1回投与
6.既存DMARDを工夫した治療
7.生物学的製剤使用前のレスポンダー判別ー

上記、既存のDMARDを工夫した治療に関して、米国で行われた4大学共同研究TEAR(Treatment of Early Aggressive RA)試験の結果を紹介します。
それによると、発症3年以内の早期活動性RAに対して、
1.MTX+エンブレル
2.MTX+SASP+HCQ
3.MTX単剤無効を6か月目に確認してからMTX+エタネルセプト
4.MTX単剤無効を6か月目に確認してからMTX+SASP+HCQ
の4群に分けて2年後にACR改善率とDAS28を比較したところ、MTX+エタネルセプトとDMARD3薬の成績は同等で、MTX単剤無効を6か月目に確認してからでも成績は変わらないとの結果が得られています。
さらに、私はACR20を達成するために必要な薬価を比較すると、同試験で生物学的製剤と同等の成績であった3薬投与に必要な薬価は、生物学的製剤の7分の1から10分の1ですむと予測しています。

金銭的に余裕のない患者さんに対する1つの方法として、これまでに述べたことが実現するよう学会で論じています。

※現在、国内においてHCQはRAの適応承認のない薬剤です。HCQに代わるものとして厚労省ガイドラインで推奨度の高いブシラミンや注射金剤を想定しています。

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