Q1.未破裂脳動脈瘤の手術は必要?
信頼できる専門家の意見に耳を傾けてください
一般に大型動脈瘤の破裂率は高いと言われています。でもサイズだけで破裂すると言い切ることはできません。これまでのデータの解析で、最大径が5mmとか7mmとかいうところに破裂率の多寡の境界があるように書かれています。脳ドック学会でも5mm以上は治療する意義があるとされています。しかし、ここを0.1mmでも下回ったら安心でしょうか?逆に5.1mmなら治療しなければいけないでしょうか?
サイズは一つの目安です。この他に、家族歴(母親や親戚が動脈瘤破裂によるクモ膜下出血を経験している)、多発性(複数)の動脈瘤、多発性嚢胞腎や全身性の血管壁の病気を持っている人は、血管が生まれつきもろいと考えられ、そのような病気のない人に比べ動脈瘤ができやすく、また破れやすいと考えられています。また、動脈瘤の形(球形でなく不整形)、破れやすい部位、動脈瘤によって生じている症状、増大する速さ、動脈瘤にはいる血流の強さや出口の大きさ、方向なども関係します。これらを総合的に判断して、破れやすいかどうかを推定するしかありません。その根拠となる判断基準はどこから生まれるかといえば、それは経験でしかありません。したがって経験の多い(しかも判断のエラーによる多くの痛い目にあって学んでいる)ドクターが最も信頼性の高いジャッジをすると思われます。なんでも「手術しましょう」というドクターは、自分が手術数を増やしたいか、科学的根拠もなく未破裂動脈瘤はいずれ必ず破れるという信念に基づいての推奨(勧誘?)ですので、必ずしも正しいとは限りません。
またもう一つ手術をするかどうかは、手術の安全性の予測が大きな要素となります。治療が困難な形や場所にあり、しかし微妙な大きさ(直径5〜6mm)の動脈瘤の場合には、無理して治療して手術後に不具合が生じる確率が高いのなら、むしろとりあえず経過観察をお勧めします。これで合併症がでても、「破裂するよりはいいでしょう」というのは医者側の自己満足にすぎません。一方、治療してもらえないなら「見捨てられたのだ」と悲嘆にくれる方もおられますが、この場合、5mm程度の動脈瘤の年間破裂率が1%程度であることを考えてください。ここで合併症が出て一生をフイにするよりは、99%破裂しない人生をとりあえず選んだほうが得であることは明らかです。
以上のように、未破裂脳動脈瘤の治療適応の決定は大変難しいのです。破裂すれば死亡率が50%にもなるクモ膜下出血となりますので、コスパで割り切る訳には行かず、かといってサイコロで決めることもできない重大な選択であることは確かです。しかし手術経験者やクモ膜下出血で身内を無くした素人の意見は、極めて独善的で偏っています。鵜呑みにせず信頼できる専門家の意見に耳を傾けてください。ただし、動脈瘤の圧迫やリーク(血液が漏れ出す)による症状註が出てきた時と、経過観察中に急に増大した場合だけは、急いで治療する必要があることは覚えておいてください。
註 このような症状のうち危険なのは、片目が見にくくなってきた。急に二重に見えてきた、片方のまぶたが下がってきた、顔の片方がゆがんだり痺れてきた、急に頭(後頭部)が痛くなったなどです。
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Q2.脳動脈瘤の治療法の選択は?
安全に確実にできそうなら塞栓術を選択する傾向
これは髪留めクリップのようなもので動脈瘤の根元(ネックといいます)を挟んで止めるクリッピングという手術か、金属(プラチナ)でできた細いコイルを動脈瘤の袋の中に詰め込む塞栓術という方法があります。前者は、開頭(頭皮を切って骨を外すやり方。もちろん治療がすんだらもとどおりにします)して、顕微鏡のもとで脳をよけながら、動脈瘤を見つけてクリップでつまみます。後者は、血管撮影室で足の付け根の動脈を針で穿刺し、X線透視を見ながら、カテーテルという細い管を動脈の中を通して動脈瘤に挿入し、この管を通じてコイルを充填します。こちらは血管撮影室で行います。どちらも全身麻酔で行うことが多いですが、後者は局所麻酔でも行うことができます。
どちらがいいのかというのは、以前から世界中で検討されてきました。現在はちゃんとやれるならコイル塞栓術の方が、成績がよいのではないかという風潮です。かつては、塞栓術の合併症が多く、クリッピングが困難な脳の深いところにある動脈瘤や、全身麻酔が困難な高齢者などに限定して塞栓術が適用されていましたが、現在はカテーテルやコイル、挿入技術の進歩により、多くの動脈瘤が塞栓術で処理できるようになってきています。入り口が広いためにコイルの座りが悪く逸脱してしまうような動脈瘤に対しても、風船でコイルを支えたり、ステントという金属の網でできた管を血管に置いてフェンスの役割をさせたりすることにより、コイルのはみ出しを防げるようになりました。コイルも非常に柔らかいものが使えるようになり、すみずみまでしっかり充填することができ、動脈瘤の壁を押して破ってしまうことも少なくなりました註。したがって、最近はコイル塞栓術に適したものはもちろん、どちらのやり方でもやれそうな動脈瘤についても、塞栓術が安全に確実にできそうなら、そちらを選択する傾向です。欧米ではすでに、60〜80%が塞栓術で治療されています。我が国もかなり塞栓術を第一選択にする方向にむかっていますが、現在全体の40%程度です。特に破裂動脈瘤では、クモ膜下出血で血だらけの脳をかき分けてクリッピングを行うよりも、脳にはさわらず治療できる塞栓術の方が脳にやさしいと思われます。特にクモ膜下出血の後には、血管攣縮(頭の中の動脈が著しく細くなってしまう現象)や、水頭症(脳の周囲を取り囲む髄液という水の流れが悪くなって頭の中に溜まってしまう現象)などが、脳をさわらない分起こりにくいとも言われています。一方、ネックをちゃんと挟んでいるクリッピングに比べ、中詰めしているだけのコイル塞栓術では再発率は高いのが問題です。
破裂動脈瘤ではすぐに治療方針を決めなければなりませんが、未破裂動脈瘤では、どちらの治療が安全で有効性が高いのかをよく検討し、専門家の意見を参考にして治療方針を決めるのがよいでしょう。
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Q3.未破裂脳動脈瘤を経過観察するなら?
普段は動脈瘤のことは忘れて、今まで通りの生活を
治療の必要がないほどの小さな動脈瘤は、年1回のMRIを撮影して大きさや形の変化を見ていけば良いと思います。もちろん破裂のリスクが低くないが、治療困難なために経過観察となっている場合には、半年に1度ぐらいチェックするほうがいいかもしれません。一方、毎日不安なのでもっと頻回にチェックして欲しいと言われる患者さんもおられます。でも、極小で、大きさの変化もないような破裂率の低い動脈瘤を、毎日のようにMRIを取ることは現実的ではありません(医療費も大変なことになります)。問題はご自分が強迫観念にしばられて、わりきれないところにあります。これは医療者側の説明の仕方も悪いのでしょうが、「大丈夫」と言われたら、「大丈夫」と思ってもらえば大丈夫なのです。私は普段は動脈瘤のあることなどは忘れて、今まで通りの生活註をエンジョイしてくださいとお話ししています。
経過観察にはMRI, MRAと頭部レントゲン写真(これはコイル塊の形の変化を見るため)が最も適していますが、もう少し詳しい情報が必要な時には三次元CTという、造影剤を使ったCTを行ったほうがよいことがあります。でも、症状が加わったり、サイズや形の大きな変化が疑われたりする時には、早めのチェックが必要です(Q1参照)。もちろん治療が必要かもしれないという段階になったら、脳血管撮影が必要になることもあります。
註 これは今までの生活が“正しい生活”をしている方の場合のみです。それまで、暴飲暴食、喫煙、不規則な生活をしている人はしっかり改めなくてはいけません。脳動脈瘤破裂の三大原因は、タバコ、高血圧、ストレスです(Q6参照)。生活習慣がコントロールできていない人は、決して「大丈夫」と思ってはいけません。
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Q4.脳動脈瘤の治療後のフォローアップは?
画像を用いたフォローアップを治療の1週間後から
クリッピングでもコイル塞栓術でも再発したり、新たな動脈瘤が治療した動脈瘤の横からキノコのように生えてきたりすることがあります。塞栓術の方がやや再発率が高い(Q3参照)ですが、10mm以下の小型の動脈瘤では再治療の必要な再発をきたす確率は2〜3%程度です。いつ再発するかは、治療の出来栄えと動脈瘤の大きさやタイプによって異なります。
クリッピングでは動脈瘤の根元にしっかりかかっていない時に残った部分が大きくなることがあり、塞栓術ではコイルの入れ方が少ないと、コイルが奥の方へずれていってしまい、動脈瘤の中に再び隙間が生じてきます。これらの変化は通常、数ヶ月から数年経って生じますが、大型動脈瘤で内部に血栓(血液が固まったもの)の部分がある場合には、コイル塞栓術後早々に再開通することがあります。したがって、通常は画像を用いたフォローアップを治療の1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後、半年後、1年後に行なうことが多く、その後も毎年フォローをすることになります。クリッピングの場合にはもう少し間をあけて行うことが多いです。方法は、通常MRIと頭蓋単純写真をとって、動脈瘤内に血流が再び生じているか、コイルの塊の形が変形しているかをチェックします。半年後または1ヶ月後に一度血管撮影を行い、変化がないか観察する場合もあります。いつまで続けるかについては特に決まりはありませんが、コイルの移動などなんらかの変化が認められた場合には、それが引き続き増大していかないか、さらに長期間、頻回にチェックすることになります。私見としましては、5年全く再発がない場合には、ほぼその動脈瘤は根治とみなして安心してもよいのではないか(となりに新しく発生してくる場合は別)と思います。
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Q5.脳動脈瘤が再発したら再治療は必要?
少し再発しただけの時には治療を追加すべきか悩ましい
元と同じぐらいの大きさになってしまったら当然再治療が必要ですが、少し再発しただけの時には治療を追加すべきか悩ましいところです。再発には不十分な治療で動脈瘤に血流が残ってしまった部分が大きくなる場合と、コイル塞栓術の場合にコイルが動脈瘤の奥の方にずれていってしまい、また瘤の中に血流が入るようになった場合があります。傍から新しく出てきたものはde novo瘤と言って再発とは別に扱い、新しい未破裂瘤として治療適応を考えます。クリッピングの場合にはクリップがしっかりかかっていなかったために、動脈瘤の中に血液が入り込む状態が残ってしまった時が問題です。治りきっていないわけですから、再開頭してクリップをかけ直すか、手術から時間がたっている場合には、クリップのかかっていないネックの部分からカテーテルを入れて、コイルで瘤内を塞栓することもできます。コイル塞栓術後の再発では、ネックが少し空いてきた、またはコイルの中心部のみがえぐれてしまった(分厚いヘルメットのような形)くらいであれば様子を見れば良いですが、明らかに動脈瘤の一方へ偏ってしまった、再び造営される部位が最初の治療前よりむしろ大きくなっているなどの場合には再治療をお勧めします。
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Q6.未治療の未破裂脳動脈瘤をもっていたら普段の健康管理は?
動脈瘤破裂の三大リスクには特に注意を
動脈瘤破裂の三大リスクは、喫煙、高血圧、ストレスです。したがって、普段の生活においてもこれは特に注意しなくてはいけません。動脈瘤は女性に多く、男性の2倍発症します。ホルモンの関与なども疑われています。喫煙は男性の方が多いので、副流煙についても回避する必要があるかもしれません。また、家族性の高血圧がある人、親族にクモ膜下出血を経験した人がいる場合は、生まれつき血管が弱いか、健康でない可能性がありますので、さらに気をつけた方がいいでしょう。
一方、寝不足、過労、心理的ストレス註がある場合には、脳梗塞などのリスクも増えますが、おそらく、血圧が上がったり、血液の性状が変わったりすることで動脈瘤破裂に結びつくある場合があるので、注意が必要です。
註 脳ドックなどで動脈瘤がみつかり、外来で「治療が必要です」と言われた直後や次の日に破裂してしまった人がいます。「死ぬかもしれない」などと脅しているわけではないも関わらず、やはり重大な宣告を受けるというのは大変な心理的ショックと考えられます。心配するなと言っても無理かもしれませんが、運命を受け入れて割り切り、プラス思考で待機してください。悲観して、自分で自分を追い込むことで良いことは一つもありません。
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Q7.頭痛と動脈瘤の関係は?破裂前の予兆はある?
破れた瞬間に意識がなくなり倒れてしまうこともよくある
動脈瘤が破裂してクモ膜下出血が生じると「頭を金づちで(またはバットで)殴られたような痛み」が生じると言われます。実際殴られた人はいないと思うので、経験がないはずですが、それぐらい激烈ということです。しかしそう思い起こして話していただける場合は軽症です。実際は破れた瞬間に意識がなくなって倒れてしまうこともよくあります。卒中は「突然中(あ)たる」ということですが、クモ膜下出血はまさに瞬間的に発症する典型的な脳卒中で、普通予測することはできません。
しかしながら、前兆として頭痛がある場合もないわけではありません。
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