MENU

Dr.TOYOAKI MUROHARA's
WEB SITE

室原 豊明 先生

文字サイズ

研究トピック

新規Akt基質であるGirdinによる血管新生のコントロール

最近、癌の「兵糧攻め治療」が話題を集めています。癌を養っている栄養血管をブロックすることで、癌の成長や転移を抑制しようというものです。私たち循環器内科の北村医師・前田助教らが、名古屋大学病理学の高橋教授のチームとともに、新規のAkt基質であるGirdinがVEGFによる血管新生において重要な役割を果たしている事を突き止め、ネイチャー・セル・バイオロジー誌に報告しました。Girdinはアクチンという細胞骨格蛋白と結合したり離れたりして細胞の形を変化させ、この結果血管新生の基本的な動作である「細胞の遊走」を調節します。今回の研究では、血管新生に最も深く関わる血管内皮細胞を使った研究成果でした。この発見の結果、腫瘍を栄養する血管の内皮細胞において、効率よくGirdinを抑制する事ができれば、癌の成長を遅くしたり止めたりすることが出来るようになる可能性があります。

【研究論文】 Kitamura T, Asai N, Enomoto A, Maeda K, Kato T, Ishida M, Jiang P, Watanabe T, Usukura J, Kondo T, Costantini F,Murohara T, Takahashi M. Regulation of VEGF-mediated angiogenesis by the Akt/PKB substrate Girdin. Nat. Cell Biol.2008; 10: 329-337.

皮下脂肪組織由来幹細胞を使った血管再生療法

「皮下脂肪」というと、「スリム」を好まれる最近では何かと邪魔者扱いされがちですが、いい事もありそうです。私たち循環器内科の近藤医師(大学院)・新谷講師らが、名古屋大学農学部の故北川教授のチームとともに、皮下脂肪組織から得られた幹細胞・組織再生細胞(ADRC)を使って、虚血部の血管再生(基礎研究)を誘導することに成功しました。この研究の発展型として、閉塞性動脈硬化症やビュルガー病の患者さんにおいて、自分のお腹の皮下脂肪を吸引してこの細胞を取り出し、悪いところの脚の筋肉内に移植すると毛細血管が再生し、皮膚潰瘍や痛みを改善させることが出来るようになるかもしれません。同じような細胞を使った治療は、実は自由診療ではすでに豊胸術などに使用されています(美容外科など)。また、高度先進医療としては乳がん手術後の乳房再建にも応用されています(杉町九大名誉教授グループ)。

【研究論文】 Kondo K, Shintani S, Shibata R, Murakami H, Murakami R, Imaizumi T, Kitagawa S, Murohara T. Implantation of adipose-derived regenerative cells enhances ischemia-induced angiogenesis. Arterioscler. Thromb. Vasc. Biol. 2009; 29: 61-66.

ダイエットしてやせると血管が再生しやすくなる?

昨今、ダイエットや痩身が花盛りです。ダイエットする(というか過度のカロリー摂取を止める)ともちろんやせるのですが、驚いた事にいろいろな老化現象が抑制されることが分かってきました。つまり「食べ過ぎは老化を促進する」というわけです。私たち循環器内科の柴田講師らは、マウスの実験で通常の食餌よりも少ない量でマウスを飼っていると、痩せとともに血液中のAdiponectinという良性の蛋白が上昇してきて、血管再生を刺激することをつきとめました。つまりカロリー制限をすると血管が若返るということです。その昔William Oslerという先生は、「人は血管とともに老いる。A man is as old as his arteries.」という格言を残しています。皆さん適正体重を守って、血管からの老化を少しでも防止しましょう。

【研究論文】 Kondo M, Shibata R, Miura R, Shimano M, Kondo K, Li P, Ohashi T, Kihara S, Maeda N, Walsh K, Ouchi N, Murohara T. Caloric restriction stimulates revascularization in response to ischemia via adiponectin-mediated activation of eNOS. J. Biol. Chem. 2009; 284: 1718-1724.