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腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術

大動脈瘤は元々金属疲労を起こして耐えられなくなり膨らんでくると、あるところで風船が破れるように決壊する病気です。
治療法は極めて簡単で、それが破裂しないように人工血管で置き換える治療となります。
腹部大動脈瘤は多くの場合、腎動脈の下に腹部大動脈があって、その下で左右の足に血液が分かれて流れております。この分岐した動脈を腸骨動脈と言いますが、腹部大動脈瘤はこの腎動脈から腸骨動脈にかけての範囲で多く発生します。
ここを破れないように人工血管で置き換えるというのがその治療法です。

血管を置き換えることによって破裂する心配は無くなります。
この手術は1952年からずっと60年にわたって我々外科医がやってきた手術ですので、治療法としてほぼ確立しており、本邦での死亡率は1〜3%台と手術成績も安定しています。


■対象となる患者さん


腹部大動脈瘤の治療は、男性の場合は直径5cm、女性では4.5cmが適応となります。また、1年間で0.5cm以上拡大するケース、のう状瘤も治療適応です。
治療適用となる患者さんのうち、下に示したリスクのない方で、比較的60代、70代の若くて元気な方に向く治療法です。


■治療の方法


お腹を約30cm程度切り、内臓を押し分けて、一番奥にある腹部大動脈を外科的に露出して動脈瘤が膨らむ上の正常な血管から、膨らみ終わった後の正常な血管までを人工血管で橋渡しをします。
この人工血管を大動脈に針と糸を使って吻合(ふんごう)して血液が漏れないようにし、血液がきれいに流れるようにする手術です。
左右の足に血液を遅れるように二股に分かれている人工血管を一般的に使いますが、分岐部にかかっていない場合には真っすぐな人工血管で膨らんでいる瘤を置き換えます。


■治療のリスク


人工血管による手術は非常に有効で、破裂を回避することが間違いなく可能です。
一方で、全身麻酔が必要であり、お腹を大きく切開しますので、それだけ身体への負担が大きいという難点がありました。
また、肺気腫のために全身麻酔がかけられない、あるいは重い心臓病を患っている、腹部の手術を何度かやっていて癒着の問題で手術が難しくなる、人工肛門がある、などの患者様には手術リスクが非常に高くなります。

胸部大動脈瘤に対する人工血管置換術

胸部の大動脈では、動脈瘤の発生する場所によって上行大動脈瘤、弓部大動脈瘤、下行大動脈瘤に分類されます。


■対象となる患者さん


胸部大動脈瘤の治療は、男性の場合は直径5cm、女性では4.5cmが適応となります。直径が5cm未満でも拡大速度が早ければ手術の適応となります。
切迫破裂(瘤が破裂しかかった状態)や破裂は緊急手術の適応です。
治療適用となる患者様のうち、下記「治療のリスク」の項で示したリスクがない方で、比較的60代、70代の若くて元気な方に向く治療法です。


■治療の方法


場所によって、下記のような人工血管置換術が行われます。人工血管は、布でできた構造物で、置き換えることで破裂の心配はなくなります。

1.上行大動脈瘤
上行大動脈瘤を人工血管に置き換えます。

2.弓部大動脈瘤
胸部真性大動脈瘤の中で最も多い大動脈瘤です。頭への血管を含む弓部大動脈を人工血管に置き換えます。

3.下行大動脈瘤
弓部大動脈瘤についで多い大動脈瘤です。下行大動脈瘤を人工血管に置き換えます。


■治療のリスク


人工血管による手術は非常に有効で、破裂を回避することが間違いなく可能です。 一方で全身麻酔が必要であり、胸やお腹を大きく切開しますのでそれだけ身体への負担が大きいという難点がありました 。また肺気腫のために全身麻酔がかけられない、あるいは重い心臓病を患っている、腹部の手術を過去に何度かおこなっていて癒着の問題で手術が難しくなる、人工肛門がある、などの患者様には手術リスクが非常に高くなります。


胸腹部大動脈瘤に対する人工血管置換術

胸腹部の大動脈瘤は胸からお腹の広範囲に動脈瘤ができている状態です。
胸腹部大動脈瘤は臓器への重要な動脈を巻き込んで存在していますので、人工血管置換術が一般的にはおこなわれています。
人工血管置換術を行うことが難しい患者様には、人工血管置換術とステントグラフト術を組み合わせたハイブリッド手術をおこなうこともあります。