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腹部大動脈瘤に対するステントグラフト術

ステントグラフト術はアメリカでは1999年に保険診療として承認を得ていますが、日本では2006年に承認がおりて2007年から保険適用がはじまった比較的新しい方式です。
この治療法ができる以前、手術に向かうにあたって不利な条件がある患者様には従来の人工血管置換術が難しく、中には手術不能となってしまう場合が多々ありました。
そのような患者様に福音となったのが、ステントグラフトという治療法です。
人工血管置換術との大きな違いは、ステントグラフトはバネのような金属でできた構造物で、ステントがついています。

 


ステントグラフト


ステントグラフトはバネの力で動脈に固定しますので、開腹をする必要がありません。


■対象となる患者さん


お腹を大きく切らない、足の付け根からそっと入れる、身体への負担が手術に比べて圧倒的に少ないということから、高齢で、心臓病や肺疾患、その他全身の状態が悪い患者様であっても治療が可能な方法です。
人工血管置換術が可能な患者様でも身体に負担の少ないステントグラフトを望まれる方もいらっしゃいます。主治医とよく相談することをおすすめします。

■治療の方法


脚の付け根の血管にステントグラフトを格納された状態で入れて、レントゲン透視装置というもので確認しながら誘導します。慎重に位置を決めながら最適なところで中に格納されているステントグラフトを開き、血管に固定します。
この手術によって血液がステントグラフトの中を流れ、瘤の方へ流れなくなるため動脈瘤の破裂が起きません。

■治療のリスク


ステントグラフトは身体への負担が圧倒的に軽いのが特徴です。 バネで固定してさらにフックで血管に食い込むように固定しますが、やはり外科医が縫い込んだものに比べると固定力は弱いため、再治療の確率が人工血管置換術に比べると3倍程度高くなります。
ただしステントがずれたためにすぐに出血することはなく、元々ある動脈瘤の中にまた血液が流れ込むことになります。
漏れたらもう一個ステントを継ぎ足していく再処置をすることで何度でも治療が可能です。


胸部大動脈瘤に対するステントグラフト術

日本では2008年からGore社のTAGが胸部用のステントグラフトとして保険収載され使用されています。また2009年5月からMedtronic社のTalentも保険収載され使用可能となりました。




ステントグラフト


胸部大動脈瘤のステントグラフトは、腹部のステントグラフトに比べると直径が少し大きくなります。また、胸部は枝分かれがないため、まっすぐな形状をしています。


胸腹部大動脈瘤に対するステントグラフト術

腹部大動脈瘤の場合、腎臓の血管の下に正常なのりしろがあるため、ステントグラフトを固定することが可能です。
しかし動脈瘤が少しずつ上部に延び、最終的には腎臓の血管を巻き込んでしまうようになるとステントグラフトが腎臓の血管や腸の血管への血流を遮断してしまうため、ステントグラフト術をすることは難しいとされてきました。
そこで我々は、枝つきステントというものを開発し、血流を維持しなくてはならない血管に枝をつけて血液が流れるようにしながら動脈瘤へは血流を遮断するという二律相反を成し遂げました。



ステントグラフト


これはステントグラフトの最先端です。
ただし患者様によって血管の立ち上がる位置が千差万別であるため現時点ではひとつひとつをオーダーメイドで作っており、保険が利かないというデメリットがあります。
しかし従来手術が不可能とされてきた患者様にとってはこれが唯一の方法という場合もあります。
慈恵会医大では患者様への経済的な負担がないように配慮しております。


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