大山 健一
Kenichi Ohyama
DR.Kenichi Ohyama'S WEB SITE 帝京大学医学部付属病院 脳神経外科 准教授 脳卒中の治療と予防
脳疾患に対する血管内治療

良性脳腫瘍の治療の適用

良性腫瘍は通常ゆっくりと増大していきますので、無症状の場合には経過観察をすることが多いと思います。

この場合は定期的に画像診断を行い、患者さんの症状の変化や腫瘍の大きさの変化を経時的に確認します。

以前脳ドックなどで診断された200例以上の症状のない(無症候性)下垂体腺腫の患者さんを5年程度経過観察しましたが、やはり腫瘍の増大のスピードは緩やかでありました。

この結果を解析し無症候性下垂体腺腫の治療方針として報告させていただきましたが、その結果は現在日本脳ドック学会での無症候性下垂体腺腫の治療方針として採用されています。

症状が既にでている患者さんや、経過観察中に腫瘍が大きくなる、あるいは少しずつ症状がでてきた患者さんでは治療が必要になります。

 

良性脳腫瘍の治療

良性脳腫瘍の場合には、腫瘍を全部切除することができれば、再発する可能性が極めて低く、患者さんはその後安心して通常の生活をおくることができます。

手術法としては開頭手術が一般的で、皮膚を切開し、骨を外して、手術用の顕微鏡を使用して、腫瘍の周囲にある正常な脳や神経などを傷つけないように細心の注意を払って手術を行います。

この場合特に脳の底(頭蓋底と呼びます)にある腫瘍に到達するためには、大きく皮膚を切開し、骨も大きく削って手術をする必要があり、難易度が高く、患者さんの負担も大きい手術となります。

この頭蓋底部の腫瘍に対しての、最新の手術法として、内視鏡を使用した経鼻的手術があります。

お鼻の穴から内視鏡と手術の道具を入れて、脳の底を下から覗きあげながら行う手術で、患者さんにとっては比較的負担の少ない方法です。

 

患者さんにとって最も負担が少なくなるような治療法を選択するようにしています。

この場合患者さんの生活状況(就業、就学、退職後など)やご年齢を考慮したうえで、腫瘍の大きさや腫瘍の場所に応じて、治療後に普段の日常生活に極力影響が及ばないようにしながら、尚且つより治療効果が高い方法を選択します。

このため手術による切除がもちろん最も治療効果が高いのですが、あえて放射線治療を優先する場合もあります。

手術法は先ほどお話したように、開頭手術と経鼻内視鏡手術とがありますが、手術法の選択においては、腫瘍への到達方法を360度のあらゆる角度から想定したうえで、正常な脳や脳神経への負担が最も少なくなるような最適な方法(到達路)を選ぶようにしています。

 

その他の治療方法

下垂体腺腫の場合には内服治療や注射薬の治療も有効な場合があります。

特にプロラクチン産生腺腫の場合には薬物療法の効果が非常に高く、通常はまずお薬での治療を行います。

お薬の無効な患者さんが10%ほどいらっしゃいますので、その場合には手術治療を行うことになります。

先端巨大症にも有効な薬物があり、患者さんの状況によっては最初に薬物療法を行う場合もあります。

そのほかの良性脳腫瘍には基本的に有効な薬物療法はありませんので、放射線治療がその他の治療法としてはほぼ唯一の方法であると言えます。

局所に集中的に高線量の放射線を照射する方法(定位的放射線療法)と腫瘍の周りを含めてすこし広い範囲に低線量の放射線を分割して照射する方法とがあり、良性脳腫瘍の場合には定位的放射線療法を行うことが多いと思います。

放射線治療をすることで、腫瘍の増大を抑制することが期待でき、効果が高い場合には腫瘍自体が縮小することも期待できます。

 

薬物治療、放射線治療の適用

薬物療法は既にお話したように、主に下垂体腺腫の患者さんに対して行います。

良性脳腫瘍に対する放射線療法は、小型の腫瘍や、手術で摘出の難しい場所の腫瘍、あるいは手術で残存した腫瘍に対して通常行われます。

ご高齢の方などで全身麻酔での手術治療が難しい場合にも放射線治療を行うことがあります。

 

治療後の生活

下垂体腺腫に対する薬物療法は外来通院で通常行っています。

定位的放射線療法の場合は、通常は数日程度の入院で済み、退院後すぐに社会復帰することが可能です。

リハビリは患者さんの状態にもよりますが、症状がない場合には必要ありません。

 

薬物治療、放射線治療のメリットとデメリット

薬物療法のメリットは手術をすることなく、病気をコントロールでできることです。

デメリットとしては薬をある程度の期間継続使用しなければならないという点と、それに伴い医療費負担が継続的にかかるという点です。

放射線治療のメリットとしては、一切体を傷つけずに済みますので(機種によっては頭部を金具などで固定する場合があります)、患者さんへの負担が少ないということが挙げられます。

デメリットとしてはやはり手術に比べると治療の即効性が低いという点と、放射線照射により周囲の正常組織にある程度の障害が加わる可能性があるという点が挙げられると思います。

しかしながら機器の進歩もめざましく、最新の定位放射線治療機器ではより安全かつ効果の高い治療が可能となっています。