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2010年05月10日: 「遺族の痛みに寄り添う」インタビュー記事が朝日新聞夕刊に掲載されました。


以下、記事原文


 遺族の痛みに寄り添う 語る人 「遺族外来」担当医 大西秀樹

朝日新聞夕刊 2010.05.10

原文:
 がんで家族を亡くす。そのつらさに寄り添う「遺族外来」が、埼玉医科大学国際医療センターにある。担当医の大西秀樹教授は「こうしたら?」といった助言はしない。遺族自身が悲しみを語ることを通じ、回復の手がかりをつかむのを待つ。(磯村健太郎)

 −−遺族外来は全国でも珍しい試みです。健康保険が適用される「精神腫瘍(しゅよう)科」という分野なのですね。
 私は、もともとは精神科医です。精神腫瘍科とは、がん患者の精神的なつらさを治療するところで、ここでは家族も診ます。家族は「第2の患者」と呼ばれます。不安や孤独感にさいなまれ、「どうしていいかわからない」という方がいる。
 さらに、ご遺族になったあとも親類に「なぜ早く、がんと気づかなかったの」と言われたり、葬儀のストレスが加わったり・・・・・・。患者さん本人が亡くなったからといって、ご家族の診療は終わり、とはいかない。そのために遺族外来があるのです。うつ病の方も多く、初診時で約4割を占めます。
 −−どんなようすですか?
 例えば同世代の夫婦を見て、ねたんでしまう。そんな自分がいやで落ち込む方がいる。あるいは「記念日反応」といって、がん告知の日や命日などに気分が沈んでいくことがあるんですよ。桜が咲いているのを見て、「ああ、この季節に化学療法が始まったな」などと思い出す人もいます。
 よく「持っていかれた」とおっしゃる。なすすべもなかったという無力感。「もっと何かできなかっただろうか」という後悔。でも百%のケアなんてあり得ません。みなさん、実際は十分すぎるほど気づかいされていますよ。
 −−心がけていることは?
 (倒れてきそうな人の肩に片手を当てるしぐさをしながら)そっと支える、という感じでしょうか。大事なのは、私の考えを押し付けないこと。何でも話してもらえる雰囲気づくりに努めます。そうするうちに、だんだんと深い話になっていきます。何年もたって「実は・・・・・・」と、だれにも言えなかったことを口にする方もいる。
 60代の女性が夫を亡くし、通院していました。あるとき自宅で(4人組のボーカルグループ)イル・ディーボの静かな音楽を聴いていた。そのとき、ふと宇宙の広がりを感じ、「どこかに、夫はいる」という感覚を持ったとおっしゃるんです。これを「意味の再構成」といいます。故人との新たな関係性をその人なりに組み立てていくことです。「いないけど、いる」と表現した人もいます。そのような「つながる感覚」がでてくるといいんです。
 −−大切な人を亡くした人が身近にいたら、どう接すればいいのでしょう。
 例えば、つい「大往生だったじゃないの」と言ってしまいそうですが、これはいけません。どんなに高齢であっても、ご遺族はつらいんです。むしろ、さりげない行動がうれしかったとおっしゃる。お弁当を持ってきてくれたとか、何も言わずにそばにいてくれたとか。安心感につながるようです。そうしたことを、社会的に広く知ってもらいたいと思っています。


 傷つけかねない言葉の例


  <悲しみが深いのに・・・・・・>
   「早く元気になってね」
   「いつまでも悲しんでいてはだめ」
   「時間が解決してくれる」
  <無理してがんばっているのに・・・・・・>
   「(旅行・趣味・買い物ができるほど)元気になったのね」
  <他人とは比べられないのに・・・・・・>
   「子どもさんが大きいから、まだまし」
   「××さんはすぐに元気にしていたよ」




→朝日新聞夕刊記事(2010.05.10)PDF


2010年05月3日: 信濃毎日新聞社文化部著「大切な人をどう看取るのか―終末期医療とグリーフケア」にご紹介いただきました。



「悲嘆と向き合う『外来』」というタイトルで、遺族外来の様子が紹介されました。
第5章「グリーフケア 死別の悲しみと向き合う」に掲載されています。
がんの時代、心のケア

大切な人をどう看取るのか――終末期医療とグリーフケア
信濃毎日新聞社文化部著
出版社:岩波書店
発売日: 2010/03


2010年02月28日: 精神腫瘍医の立場から執筆した連載記事、日本経済新聞日曜日朝刊の「医師の目」第5回が掲載されました。


最終回となる、第5回は「遺族の喪失感・苦痛察して」をテーマにいたしました。

以下、記事原文


 医師の目 第5回〜遺族の喪失感・苦痛察して〜

日本経済新聞 2010.02.28

原文:
 がんは我が国の死因の第1位で、年間30万人以上が亡くなる。単純に考えても遺族の数はその数倍。がんで愛する人を亡くし、つらい日々を送る遺族も多い。埼玉医科大学国際医療センター精神腫瘍(しゅよう)科では「遺族外来」を設け、遺族のつらさに対応する診療を行っている。
 夫を胃がんで亡くした60代の女性が来院。葬儀を終え、2か月が経過したころから眠れず、日中は身体がだるく家事もできなくなった。死別をきっかけに、ストレスからうつ病を発症していた。治療で改善することを説明し、抗うつ薬投与とじっくり話を聞くカウンセリングを定期的に行うと次第に症状は消えた。
 女性は言った。「夫が亡くなることは分かっていました。でも、実際亡くしてみるとつらさは想像を絶するものでした」「今でも、夫婦で歩いている人を見ると、『なんで私には夫がいないの』とつらくなることもあります」
 そんな状態なのに、周囲の人から「あなたは子供さんが大きいからまだましですよ」などと言われ、さらにつらい思いをする。「夫を亡くした悲しみはこれからも色々な形で続くのでしょうね」
 死別は人生で最もつらいストレスの一つで、心身に様々な影響を及ぼす。心の問題ではうつ病になる割合が高くなり、自殺率が上昇する。身体の問題では、心疾患などによる死亡率上昇、持病の悪化などが知られ、遺族に医学的対応が必要になる場合がある。
 しかし、遺族のつらさが周囲に十分理解されていないことがある。「いつまでも泣いていたら成仏できないわよ」「そろそろ趣味でも始めたら?」「家事も減って1人で気楽でしょ」などと言われ、悲しみが理解されていないことに傷つく。亡くなった娘あてに、進学塾のパンフレットが送りつけられ、悲しみを募らせる例もある。少しずつ立ち直りつつある遺族が、周囲のふとした言葉や態度で逆戻りしてしまうこともある。
 死別でつらい思いをしている方々への援助は、医学的な対応のみでは不十分である。死別に対する社会的理解が進み、周囲が遺族の抱えるつらさに気付くこと、気遣いを持って接することが必要ではないだろうか。



→日本経済新聞「医師の目」(5)記事(2010.02.28)PDF
※記事は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断での複写・転載は禁じます。


2010年02月21日: 精神腫瘍医の立場から執筆した連載記事、日本経済新聞日曜日朝刊の「医師の目」第4回(全5回予定)が掲載されました。


本日、第4回は、「悩める家族は第二の患者」についてです。

以下、記事原文


 医師の目 第4回〜悩める家族は第二の患者〜

日本経済新聞 2010.02.21 

原文:
 診察に行った病棟で、看護師に声を掛けられた。「これからCさんの診察ですよね。看病している奥様がひどく疲れているようです。一度診てもらえませんか」。Cさんは胃がん患者。全身の臓器に転移があり、身体も衰弱、残された日々は少なかった。
 病室で看病している妻をみると確かにつらそうだ。妻に「最近お疲れのようですね。私たちは診察という形でご家族のご相談にも乗っています」と声をかけたところ、「ぜひ受けたいです」とのこと。
 診察時、妻は憔悴(しょうすい)しきっていた。「苦しむ夫を見るのがつらい」「どう声をかけてよいのか」「帰宅しても不安で眠れない」。先の見通しが立たない不安、抑うつ感に苦しんでいた。
 妻は反応性のうつ状態で、精神科の診断がついた。「以前にご病気されたことがありますか」と尋ねると、「実は私もがんなのです……」。半年前に乳がん手術を受け、抗がん剤治療を受けていたが、途中で夫にがんが見つかり、自らの治療を中断、看病にあたっていた。がん患者が、がん患者を看病。老老介護ならぬ「がん・がん介護」の状況である。
 妻は、自分のことは関係ない、話せば病院に迷惑がかかると考え、病気のことは伏せていた。しかし、このまま看病を続けることは限界に近かった。その場で今後の継続的援助を約束し、担当医、病棟スタッフが、患者のみならず妻の体調の相談にも乗り、精神的にもサポートした。その結果、妻は夫が亡くなるまで精神的な安定を保ちながら看病を続けることができた。
 家族は、看病以外に自分自身の心・身体の問題など多くの苦悩を抱えているが、「自分は健康」「患者のほうがつらい」と考え、周囲に告げるのをためらうことが多い。そのため、私たち医療スタッフも家族の苦悩を過小評価してしまうこともある。
 だが、家族の精神的苦悩の程度は患者とほぼ同等なことが知られ、「第二の患者」として治療とケアの対象と認識されつつある。がん医療では患者のみならず、家族の心身の安定にも気を配ることが大切。それが実現されてこそ、本来の意味でのよい医療と言えるのではないだろうか。



→日本経済新聞「医師の目」(4)記事(2010.02.21)PDF
※記事は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断での複写・転載は禁じます。


2010年02月18日: 上野玲さんの著書「ルポ がんの時代、心のケア」にご紹介いただきました。



がんの痛みにともなう、うつの苦しみに向き合う精神腫瘍医として紹介されました。
第1章「精神腫瘍医師の仕事」に掲載されています。


がんの時代、心のケア

ルポ がんの時代、心のケア

上野 玲著
出版社:岩波書店
発売日: 2010/02


2010年02月14日: 精神腫瘍医の立場から執筆した連載記事、日本経済新聞日曜日朝刊の「医師の目」第3回(全5回予定)が掲載されました。


本日、第3回は、「体の悲鳴はストレスの表れ」についてです。

以下、記事原文


 医師の目 第3回〜体の悲鳴はストレスの表れ〜

日本経済新聞 2010.02.14 

原文:
 私の外来には様々ながん患者が紹介される。患者の訴えの中では、不安、眠れない、落ち込んでいるという心の問題が特に多いが、時にはその訴えが身体症状のこともある。「肩が痛い」「のどが締め付けられる感じがする」「ふらついて大変」−−。
 なぜ、精神科医である私のところに、身体症状を訴えに来るのだろうか。実は、これらの訴えに対して、身体の科の担当医がいくら調べても異常がみられなかったためだ。
 このような患者に詳しく話を聞くと、「不安だ」「気分がめいっている」と精神症状も訴えることが多い。訴えを総合的に判断し、抗不安薬、抗うつ薬などを投与すると身体症状が軽くなり、時に無くなることもある。つまり、身体症状と思われたのは精神面に由来する症状だったのだ。
 人間の心はストレスがかかると、不安、抑うつといった精神症状が表れることは広く知られているが、身体症状を呈することも多い。緊張する場面で動悸(どうき)がしたりするのはその典型だろう。
 先日、胃がん患者が受診した。手術そのものは順調で特に問題もなく退院。しかし、自宅にもどると食べられず、吐き気、嘔吐(おうと)が収まらず、再入院となった。検査では異常が見つからず、精神面の関与が疑われた。
 外来で詳しく話を聞いた。患者はがんの診断でショックを受けたものの、手術までは何とか乗り切った。しかし退院後は復職が不安になり、気分も落ち込み、本も読めないほど集中力が落ちてしまったという。診断はうつ病。患者にストレスが身体に出た可能性が高いと説明し、精神科的な薬物治療を行ったところ、吐き気・嘔吐が消え、食欲も戻り、仕事にも復帰した。
 心と身体は密接につながっており、ストレスが身体に現れることもある。しかし、がん患者には多くの身体症状があり、がんの症状とみなされてしまうこともある。私自身気づかなかったこともある。がん患者は、病気以外に、仕事、家庭、お金のことなど多くのストレス要因を抱えながら治療を受けている。これらストレスで出現する身体症状を適切に見いだし、治療することで、よりよい闘病生活を送ってほしいと願っている。



→日本経済新聞「医師の目」(3)記事(2010.02.14)PDF
※記事は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断での複写・転載は禁じます。


2010年02月07日: 精神腫瘍医の立場から執筆した連載記事、日本経済新聞日曜日朝刊の「医師の目」第2回(全5回予定)が掲載されました。


本日、第2回は、「がん患者の苦痛、心の問題も」についてです。

以下、記事原文


 医師の目 第2回〜がん患者の苦痛、心の問題も〜

日本経済新聞 2010.02.07 

原文:
 がん医療現場でのうつ病について報告したい。
 数ヶ月前に進行乳がんの診断を受けた60歳の女性。手術ができないため、ホルモン療法を行っていた。治療効果は良好だったが、副作用と思われるめまい、ふらつきに苦しめられた。症状があまりにもつらいため、患者は治療中止を選択。1カ月が経過しても症状は改善せず、何かおかしいと感じた担当医が精神腫瘍(しゅよう)科を紹介した。
 患者は疲れ切っていた。ホルモン療法開始後のめまい、ふらつきが苦痛で気分がめいり、物事に対する興味も薄れ、眠れず、食欲が低下し、身体はだるく、新聞を読んでも頭に入らなくなってしまったという。家族も急に変ってしまった患者に戸惑っている様子であった。
 この患者をみて、どう思われるだろうか。がんの進行で身体が衰弱したのだろうか。それとも、がんになったことで悩んでいるのだろうか。
 実は、そうではない。この患者の診断はうつ病。問診で明らかになった、食べられない、身体がだるいなどの患者の訴える苦痛は、一見がんによる症状のようだが、うつ病の症状の一部でもある。
 患者に、精神腫瘍科の診断はうつ病であること、それが良くなってからホルモン療法の再開について検討することを伝え、抗うつ剤を投与。すると治療開始後2週でよく眠れるようになり、3週後にはめまい、ふらつきがなくなった。このころから「もう一度治療を受けたい」と話すようになり、1カ月後にはホルモン療法を再開した。その際めまい、ふらつきはなかった。
 では治療中断のきっかけとなった「めまい、ふらつき」は一体何か。実は、これもうつ病の症状だった。患者は、それらが初めての治療開始と同時期に現れたことで、薬の副作用と感じたかもしれない。また、うつ病で治療意欲が低下していたことが治療中断に至った理由かもしれない。
 治療中断の選択は人生における重大な決断であり、適切な判断ができるよりよい精神状態の下で行われるべきだ。しかし、うつ病になるとその判断の適切さが失われることがある。何かおかしいと感じた担当医の判断がこの患者を救ったのだ。



→日本経済新聞「医師の目」(2)記事(2010.02.07)PDF
※記事は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断での複写・転載は禁じます。



2010年01月31日: 精神腫瘍医の立場から執筆した連載記事が本日(2010年01月31日)より日本経済新聞日曜日朝刊の「医師の目」に掲載されます。この連載は5回を予定しています。


がん患者の心のケアを専門としている精神科医の現状報告として執筆した連載記事が日本経済新聞に掲載されます。
本日、第1回は、「がん医療、欠かせぬ心のケア」が掲載されました。

以下、記事原文


 医師の目 第1回〜がん医療、欠かせぬ心のケア〜

日本経済新聞 2010.01.31 

原文:
 わが国の2人に1人が罹患(りかん)するがん。患者の抱える心の問題はどのようなものだろうか。がん患者の心のケアを専門としている精神科医(精神腫瘍<しゅよう>医)から現状を報告したい。
 ある日、1人の患者が来院した。Aさん、60歳。退職後は趣味の陶芸に生きる夢を持ち、必死に働いた。そして念願の定年退職。このころからせきと腰の痛みが出てきた。念のため受けた健康診断で再検査の通知が届く。結果は肺がん、骨転移の診断。陶芸を始める代わりに、抗がん剤と放射線治療が始まった。
 しかし、治療開始後に気分の落ち込みが見られたため、心配した主治医が私の外来(精神腫瘍科=がん患者の心のケアを専門に行う外来)を紹介、受診することになった。外来でのAさんは憔悴(しょうすい)しきっていた。Aさんは語る。
 「どうして私が、”がん”なのだろうか?」「何も悪いことはしていないのに」「今までの人生は何だったのだろう」「治療を受けても仕方がないのではないか?」
 様々な苦悩がAさんを襲っていた。精神腫瘍医としてAさんの話を聴いた後、今後もできる限りの援助を行うことを伝えたところ、翌週の外来では、少し気持ちが落ち着き、治療に前向きな姿勢が出たようだった。
 がんになると、それまでの日常は一変し、治療中心の生活が始まる。また、治療選択の問題、仕事の問題、家庭の問題などが生じ、患者は多くのストレスを抱えながら治療を受けている。がんは身体ばかりでなく、心にも負の影響を及ぼす病気なのである。
 では、治療中のがん患者が100人いると、何人に精神科の診断がつくかご存じだろうか?答えは50人。治療中のがん患者の2人に1人だと報告されている。また、診断がつかない患者でも精神的に苦しんでいることが多い。
 多くのがん患者が精神的に苦悩している。患者の苦痛は治療意欲低下など、がん治療自体に悪影響を及ぼすこともある。これらの苦悩は精神的治療で改善することも知られている。つまり、がん医療のおける精神的治療は、より良い医療を提供するため欠くことができないのである。



→日本経済新聞「医師の目」(1)記事(2010.01.31)PDF
※記事は、日本経済新聞社の許諾を得て掲載しています。無断での複写・転載は禁じます。