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脳動脈瘤

脳動脈瘤の治療方法

脳動脈瘤の破裂を予防するには、現在2通りの方法があります。

 

1:開頭クリッピング術

動脈瘤は脳のしわの間に埋まっています。クリッピング術とは手術顕微鏡を使ってこのしわを丁寧に剥離して、脳動脈瘤にクリップをかけて破裂を予防する手術です。クリップで動脈瘤の根元の部分を閉塞すると動脈瘤を完全に血流が通わない状態にすることができます。

クリップはいろいろな形状のものがあり、殆どチタン性のものを使用しているため、術後にMRI撮影も可能です。

 

 

手術は部分剃毛で行うため、手術創はほとんど目立ちません。

 

(手術の工夫)

手足を動かす運動野に関与する穿通枝がからんでくる動脈瘤の手術の際には、術中電気刺激モニタリングを行い穿通枝の血流障害を未然に防ぐようにしています。観察しにくい動脈瘤の裏側などは神経内視鏡を用いて確認することもあります。

 

(クリッピング術のメリット)

手術の最大の利点は根治性があることです。一旦クリップがかかれば、ほぼ生涯にわたって破裂を予防できます。

 

(クリッピング術のデメリット)

開頭が必要であるため頭に手術創が残ります。入院期間も長めになり、手術が順調に終わっても社会復帰まですこし時間が必要です。術後出血や症候性てんかんなどの合併症の可能性があります。

 

 

2:血管内治療(開頭せずに行う治療)

カテーテルという細い管を太腿の付け根の血管から挿入し、動脈瘤まで到達させます。このカテーテルの中からコイルという柔らかい金属(プラチナ性、MRI 可能) を送り込み動脈瘤の内部を埋めます。障害を残さず安全に治療できる可能性は、開頭手術と同じ程度です。

 

(コイル塞栓術のメリット)

この治療法の利点は、入院期間が短くてすむこと(通常、未破裂動脈瘤で5日前後)、手術創が残らず、痛みもなくてすむこと、剃髪しなくてよいことといった体の負担が少ないことなどです。また、高齢者でも治療を受けられる事などがあげられます。

この数年で血管内治療のデバイスが急速に進歩しており、安全に治療できる動脈瘤が増えてきました。また単純なコイル塞栓術が難しい瘤に対してもステントを使って治療することが可能になってきています。

 

(コイル塞栓術のデメリット)

動脈瘤が再増大し再治療を必要とするケースがみられることや、ステントを使用した場合には術後抗血小板剤内服を続ける必要があることなどです。手術合併症である術中破裂が起きてしまった場合にはクリッピング術より重篤な後遺症を遺す可能性が高くなります。動脈瘤の形状(間口が広いものや、分枝血管が動脈瘤から出ているものなど)によってはクリッピング術をお勧めする場合もあります。

 

前交通動脈
未破裂動脈瘤
コイル3本挿入 コイル塞栓後、動脈瘤は写らなくなった

 

治療に対する考え方

まず未破裂脳動脈瘤が見つかったからと言ってすぐに手術を受ける必要はないと考えます。

年間1%の破裂率というのは、逆にいうと年間99%は破裂しないということです。患者さんの不安をあおるような説明はしないように心がけています。

UCAS Japanの結果からも3mm未満の動脈瘤は治療する必要がないと考えます。

ただ破裂率が比較的高い前交通動脈瘤や後交通動脈分岐部瘤は4mm以上であれば治療を検討してよいと考えています。症候性のものや大型のものは破裂率が高いので早めの治療をお勧めしますが、未破裂脳動脈瘤の手術はあくまで将来の出血を予防するためのものです。

未破裂脳動脈瘤の外科治療をうけるかどうかは最終的にご本人・ご家族の判断が重要です。治療するのであればご本人の現在の仕事・家庭の状況を考慮してその時期について検討いただきます。

 

未破裂脳動脈瘤の治療については破裂予防も重要ですが後遺症を残さないような外科治療を行うことが同程度に重要と考えます。

 

現在動脈瘤の治療については血管内コイル塞栓術の適応が広がってきています。

ただステント併用コイル塞栓術は抗血小板剤の長期内服が必要であり内服による副作用は無視できないことから、ステント併用が必要なコイル塞栓術については開頭クリッピング術で確実に治療可能であれば開頭クリッピング術をお勧めします。クリッピング術が困難と判断される部位についてはステント併用コイル塞栓術を検討します。

また動脈瘤の部位についてクリッピング術が容易である中大脳動脈瘤や遠位前大脳動脈瘤について当科でコイル塞栓術をお勧めすることはありません。クリッピング術とコイル塞栓術が同程度に施行可能と判断されれば、あとはご本人の状況・ご希望に合わせて治療法をご相談しています。