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頚動脈狭窄症

頚動脈狭窄症とは

年をとると動脈が固くなります。

これが動脈硬化ですが、年齢の他、高血圧、糖尿病、高脂血症といったいわゆる成人病、喫煙などが動脈硬化を悪化させる要因となります。

頚動脈はちょうど顎の内側で脳へ血流を送る内頚動脈と、顔面・皮膚・筋肉に血流をおくる外頚動脈に分岐しますが、その分岐する部位の血管にカス(プラーク)がたまってくるものです。

頚動脈狭窄症の症状

プラークがはがれて血流にのって飛んでいくと手足のまひがでたりしびれがでたりします。

それが一時的で脳梗塞の前触れの症状(一過性脳虚血発作)ですむこともあれば、脳梗塞になってしまうこともあります。

また脳の手前で目に血流を送る眼動脈にプラークがとんでいくと、一時的に片目が見えなくなる(一過性黒内障)を起こすこともあります。

頚動脈狭窄症の治療

頚動脈狭窄病変が原因で症状が出現した場合(症候性といいます)には外科治療が必要と考えます。

また症状がなくたまたま見つかった場合でも狭窄率が進んでいる場合には将来の脳梗塞予防のために外科治療をお勧めすることがあります。

頚動脈狭窄症の治療には、頚動脈にたまったプラークを直接取り除く頚動脈内膜剥離術(CEA)と、動脈の中からステントを挿入して狭い個所を広げる頚動脈ステント留置術(CAS)があります。

症候性か、無症候性か、またプラークの性状(固そうか、やわらかそうか)や、患者さんの全身状態を評価してCEAあるいはCASを選択しています。

症候性は原則CEA、無症候性はCEAあるいはCASを行いますが、治療法については当科で検討した結果からおすすめしており、患者さんやご家族の希望で決めるという割合は少ないです。

頚動脈内膜剥離術(CEA)とは

症候性の頚動脈病変はまずCEAを行えるかどうか検査結果を検討します。

動脈硬化が強い場合、術後過潅流症候群のリスクが高い場合、脳梗塞発症急性期にはCASよりCEAを選択しています。当院でCEAを行った最高齢は87歳です。

手術は全身麻酔で行います。頚部に10cmほどの皮膚切開をおいて直接頚動脈を露出します。動脈を一時的に遮断して動脈切開を行った上で血管壁に付着したプラークをはがして摘出します。その後動脈を再度縫合して皮膚を閉じる手術です。

 

入院期間は10日から2週間程度です。

術後創部が腫れますが、退院後1−2週間で職場復帰可能です。

 

(CEAのメリット)

メリットは歴史があり治療方法が確立していること、治療成績について複数の論文で有効性が示されていること。症候性の原因となるプラークを確実に除去できることです。

 

(CEAのデメリット)

デメリットとしては全身麻酔が必要であり、頚部に手術創が残ること(半年もすれば目立たなくなりますが)、創部周辺の感覚が鈍くなることがあること、舌や飲み込み関係の脳神経の障害が出現する可能性があることなどが挙げられます。

頚動脈ステント留置術(CAS)とは

頚動脈の中からステントという金属製の管を挿入し中から狭窄部を広げる治療です。

プラークを外側へ押し付けるイメージです。手術は局所麻酔で行いますので全身麻酔が難しい患者さんの場合、また若年で無症候性の場合にはCASのよい適応と考えます。そのほか、CEA後の再狭窄、頚部放射線治療後の狭窄病変、狭窄位置が高い、心臓の冠動脈ステント留置後で抗血小板剤を2剤内服継続が必要な患者さん、などの場合によい適応となります。

 

 

(CASのメリット)

メリットはなんといっても頚部に傷がなく、傷は足の付け根の1か所のみなので体の負担が軽いことです。局所麻酔で時間も短いので術後肺炎などもおこしにくく、入院期間も短くなります。

 

(CASのデメリット)

デメリットとしてはプラークを完全に除去できないこと、治療中にプラークや血栓が飛んでいき脳梗塞を起こすリスクがあること、などです。

頚動脈狭窄症の患者さんの治療方針

症候性の場合には50%以上狭窄があり頚動脈病変が一過性脳虚血発作・脳梗塞の原因と考えられる場合には外科治療をお勧めしています。

無症候性の場合には基本的に内科的加療のみなので近医でフォローしていただいていますが、流速が亢進して200cm/sを越える場合、狭窄率がECST 70-80%程度ある場合には外科治療を考慮しています。

 

当院ではCEAの豊富な治療経験があります。CEAはよい治療法ですが脳神経麻痺や術後出血などどうしても一定の割合で合併症が出現します。

CASに関してはステントの種類やプラークが飛んで行かないようなバルーンやフィルターといったデバイスの進歩が著しく治療成績も良好です。CASの危険性が高いものは当然CEAを行いますが、CEA、CASどちらでも治療可能な病変であればCASをお勧めしています。頚動脈狭窄の治療はCEAにしろCASにしろそこで治療は完了しません。その後も内科的管理を継続していただくことが重要です。