2.逆流性食道炎が起こるメカニズム
胃から分泌される胃液は、食物を消化しやすくするために強い酸性の胃酸や消化酵素を含んでいるため、強い刺激性をもっています。
胃は粘膜によって保護されていますが、食道の粘膜は胃と違い胃液に対する抵抗力が弱いため、健康な状態では、食道が胃液で傷つかないように、胃液が食道に逆流しない仕組みが働いています。その主役は下部食道括約筋(かぶしょくどうかつやくきん)です。下部食道括約筋は、食道と胃のつなぎ目(噴門部)にある筋肉で、食べた物を飲み込む時には、ゆるんで食道から胃に食べ物が落ちるようにし、それ以外の時は、食道をしめて、胃の内容物が逆流しないようにしています。
これに加えて、食道は食道のぜん動運動(消化管が筋肉の収縮により口から食べたものを肛門側へ運搬していく運動のこと)によって、胃の内容物が逆流してしまっても、すばやく胃へ戻したり、唾液を飲み込むことによって食道に入った胃液を薄めて流すことで、食道が胃液や胃の内容物で傷つかないようにしています。
逆流性食道炎は、下部食道括約筋など食道を逆流から守る仕組みが弱まるか、胃酸が増えすぎることで、胃液や胃の内容物が逆流し、それが食道の中にしばらくとどまるために起こります。
3.逆流性食道炎の原因
逆流性食道炎の原因となる胃液や胃の内容物の逆流は、食事の内容、肥満、加齢、体型などによって下部食道括約筋等の食道を逆流から守る仕組みが弱まったり、胃酸が増えすぎることで起こります。
脂肪の多い食事、食べ過ぎ
脂肪分のとりすぎや食べ過ぎによって、何も食べていない時に下部食道括約筋がゆるみ、胃液が食道に逆流してしまうことがあります。
脂肪の多い食事をとった時に十二指腸から分泌されるコレシストキニンというホルモンの働きや、たくさんの食事で胃が引き伸ばされることで、下部食道括約筋がゆるむと考えられています。
脂肪の多い食事は、胃酸を増やすことによっても胃液の逆流を起こしやすくします。
タンパク質の多い食事
タンパク質の多い食事は消化に時間がかかり、胃に長くとどまるため、胃液の逆流が起こりやすくなります。
加齢
年をとると、下部食道括約筋の働きが悪くなります。また、食道のぜん動運動、唾液の量なども少なくなるため、逆流した胃液を胃に戻すことができなくなります。
背中の曲がった人
背中が曲がると、おなかが圧迫され、胃の中の圧力が高くなるため、胃液の逆流が起こりやすくなります。
肥満
日本人では、肥満と逆流性食道炎の関係を示すデータがないので、はっきりしませんが、肥満の人は、逆流性食道炎の原因のひとつである食道裂孔ヘルニアになりやすいことが分かって
います。また、腹圧が上がることで、逆流しやすくなるともいわれています。
他の病気に使用する薬の影響
喘息、血圧、心臓の病気などに使う薬の中には、下部食道括約筋をゆるめる作用をもつものがあります。
ピロリ菌と逆流性食道炎
ピロリ菌は胃の中に生息する細菌で、胃炎や胃潰瘍、十二指腸潰瘍などの病気の原因のひとつです。ピロリ菌と逆流性食道炎の関係について、ピロリ菌に感染している人の割合が高い国は逆流性食道炎の患者さんが少ないことが分かっています。これは、ピロリ菌によって胃に炎症が起こると、胃酸の分泌が少なくなるためと考えられています。日本はピロリ菌に感染している人の割合が高い国でしたが、衛生環境が改善してきたことで、その割合は低くなってきました。これが近年、日本で逆流性食道炎が増えたことのひとつの原因と考えられています。
一方、ピロリ菌に感染している胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者さんは薬でピロリ菌を排除する治療が行われますが、以前はピロリ菌を除菌すると逆流性食道炎になる人が増えるという説がありました。しかし、最近の研究で、ピロリ菌の除菌によって逆流性食道炎が起こったとしても一時的なものであり、また多くは軽症のものですので、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の患者さんは、除菌後の逆流性食道炎を気にすることなく、除菌治療を受けることが勧められています。
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