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逆流性食道炎の診断と治療

 逆流性食道炎の治療


      この頁では、逆流性食道炎の治療についてご理解いただくため
        7.逆流性食道炎に伴う合併症
        8.逆流性食道炎を起こしやすい病気
        9.逆流性食道炎に対する治療
        10.逆流性食道炎に対する内科的治療
        11.逆流性食道炎に対する外科的治療
      についてご説明します。







7.逆流性食道炎に伴う合併症

バレット食道

 

バレット食道とは、食道の粘膜の表面にある「扁平上皮」という組織が変質し、胃の粘膜に似た「円柱上皮」という組織に置き換えられてしまう病気です。これは胃の内容物の逆流が繰り返されることで起こると考えられており、逆流性食道炎の合併症といえます。 欧米では、バレット食道が、食道がんにつながる危険性があると考えられています。日本人では、今のところ食道がんとの関係ははっきり分かっていませんが、定期的な検査が勧められます。バレット食道を予防するためには、逆流性食道炎をきちんと治療することが大切です。


睡眠障害

   

なかなか眠れない、夜中に何度も目を覚ますといった睡眠のトラブルに悩まされている方もいます。これは、寝ると、胃酸が逆流しやすくなり、胸やけや呑酸といった症状が起こりやすくなるためです。


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8.逆流性食道炎を起こしやすい病気

食道裂孔ヘルニア

 

1) 食道裂孔ヘルニアとは

私たちの体の胸(肺・心臓・食道などがある)と腹部(肝臓・胃・小腸・大腸などがある)の間には横隔膜という筋肉でできた比較的薄い膜がありますが、この横隔膜には、食道や大動脈、大静脈などの血管が胸部から腹部へ通るための穴が数カ所開いています。このうち、食道が通っている穴を食道裂孔といいますが、本来お腹の臓器である胃の一部またはほとんど全てがこの食道裂孔から胸部に滑り出してしまっている病気を食道裂孔ヘルニアといいます。
食道裂孔ヘルニアには、食道と胃のつなぎ目(噴門部)が胸部に出ているタイプ(I型)、胃の一部が出ているタイプ(II型)、この2種類が混合したタイプ(III型)と胃だけではなく他の臓器も出ている(IV型)に分類されています。
最近はこの食道裂孔ヘルニアの患者さんが増加し、特に大きなIII型が増加していることが指摘されています。



 

2)食道裂孔ヘルニアの原因

   

食道裂孔ヘルニアは、生まれつき食道裂孔がゆるく食道裂孔ヘルニアを起こしやすい状態となっている小児にも生じますが、肥満、喘息や慢性気管支炎などでひどい咳が多くおなかの圧力が高い状態が頻回にあることが原因で起こるとされています。その他にも、加齢によって食道裂孔を構成する筋肉がゆるくなったり、ご高齢の女性に多い背骨が曲がったりしている場合にも、起こりやすいといわれます。


3)食道裂孔ヘルニアと逆流性食道炎

 通常であれば食道と胃のつなぎめは横隔膜の部分にあり、横隔膜は食道裂孔の部分で食道を締めつけ、胃の内容物が食道に逆流するのを防ぐ働きを持っています(逆流防止機構)。しかし、食道裂孔ヘルニアになると食道裂孔が大きく開いてしまい横隔膜による締めつけができにくくなり、逆流が起こりやすくなって逆流性食道炎が起こりやすくなります。 軽い小さな食道裂孔ヘルニアで症状がなければ、とくに治療を行う必要はありません。しかし、胃が大きく胸にずれ込んでいたり、逆流防止機構が働かず胃酸が食道内に逆流することで食道炎を起こし、胸やけなどの症状がある場合には、胃酸を抑える薬などで治療します。薬物療法の効果がない時や、最近増加していきているヘルニアの程度がひどい場合(III型やIV型)には、手術を行うこともあります。


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9.逆流性食道炎に対する治療

   

 逆流性食道炎の治療の中心は生活習慣の改善と薬の服用です。多くの方は、これらの治療で食道の炎症や症状は良くなりますが、まれに手術や内視鏡を使った治療が必要になる方もいます。


生活習慣の改善

 

逆流性食道炎の治療でまず大切なのは、食事・姿勢・服装など、逆流性食道炎を起こす生活習慣を変えていくことです。

薬物療法

 生活習慣の改善だけでは、症状を完全になくすのは難しいため、多くの患者さんは生活習慣の改善とあわせて薬による治療を行います。薬による治療を始めると、多くの方では、すみやかに症状はなくなります。ただ、症状がなくなっても、食道の炎症、びらん、潰瘍はすぐに治るわけではありませんので、しばらくは薬を飲み続ける必要があります。また、現在使われている薬では、胃から食道への逆流を根本から治すことはできないため、治癒した後に服薬をやめると再発する方が少なくありません。そうした方では、薬を長い間飲み続ける治療(維持療法)も行われます。
食道の炎症やびらん、潰瘍の程度が軽く、胸やけなどの症状もときどきしか起こらないような方では、症状がある時だけ服薬する治療が行われることもあります。
逆流性食道炎の薬としてもっとも効果が高く、よく使われるのは、胃酸の分泌を抑える薬です。食道へ逆流している胃酸を少なくすることで、逆流性食道炎の症状や炎症を改善します。食道の粘膜を保護する薬や胃酸を中和する薬、胃の運動を活発にする薬を一緒に飲むこともあります。


逆流性食道炎に対してよく用いられる薬

ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)

 胃の分泌腺にある壁細胞(へきさいぼう)には、ヒスタミンという物質が結合すると胃酸が分泌されるH2受容体という部分があります。この薬は、ヒスタミンがH2受容体に結合するのを妨げることによって、胃酸の分泌を抑えます。以前は、医師に処方してもらう薬しかありませんでしたが、一部の薬は薬局でも購入することができます。しかし医師が処方する薬とは含有量が違うものもあり、効果は異なります。市販のヒスタミンH2受容体拮抗薬については3日間飲んでも症状が良くならない場合には、医師または薬剤師に相談することとされています。副作用は少ないですが、発疹、便秘、下痢、口の渇き、食欲不振などが起こることもあります。


プロトンポンプ阻害薬(PPI)

 胃の分泌腺にある壁細胞には、胃酸を分泌するプロトンポンプという部分があります。この薬は、そのプロトンポンプの働きを妨げ、胃酸の分泌を抑えます。症状がある時に使われるほか、再発を繰り返す場合には、再発防止のために薬を服用し続けることもあります。 副作用は少ない薬ですが、発疹や肝障害などが起こることもあります。


粘膜保護薬(アルギン酸ナトリウム)

 食道の粘膜をおおって、逆流してきた胃液から食道を守り、炎症の改善をたすける働きがあります。効果のある時間が短いため、多くの場合、胃酸を抑える薬と一緒に使われます。 副作用は少ない薬ですが、便秘や下痢が起こることがあります。


制酸薬(水酸化アルミニウムゲル、水酸化マグネシウム)

 胃で分泌された胃酸や、食道に逆流してきた胃酸を中和して、食道粘膜が傷害される程度を軽くしたり、症状を速やかに和らげる働きがあります。効果のある時間が短いため、多くの場合、胃酸を抑える薬と一緒に使われます。 副作用は少ない薬ですが、便秘や下痢が起こることがあります。


手術

 生活習慣の改善や薬で効果がなかった時、再発を繰り返す時には、手術を行うことがあります。最近は、内視鏡の一種である腹腔鏡を使った手術が増えてきています。

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10.逆流性食道炎に対する内科的治療

胃液の逆流を起こしやすい食べ物を減らし、食生活を改善しましょう

 

脂肪分やタンパク質の多い食事をとりすぎないようにすることが大切です。他に、胃酸を増やしたり胸やけの症状を悪くしたりすることのあるチョコレート・ケーキなどの甘いもの、唐辛子・コショウなどの香辛料、みかんやレモンなどの酸味の強い果物、消化の悪い食べ物などはとる量を減らしましょう。


胃一度に食べ過ぎないように

一度にとる食事の量を減らし、腹八分目を心がけましょう。


アルコール、コーヒー、緑茶を減らしましょう

アルコールは、胃酸の分泌を増やすと同時に、食道下部括約筋をゆるめることが分かっています。アルコールはできるだけ控えましょう。 またコーヒーや緑茶などに含まれるカフェインも、胃酸の分泌を増やします。


肥満を解消しましょう

食生活の改善とともに、適度な運動を行い、肥満を解消しましょう。


姿勢に注意しましょう

姿勢と逆流性食道炎は深く関係しています。日中は前かがみの姿勢を避けましょう。寝る時は、少し上半身を高くして寝ると、逆流が起こりにくくなります。 食後3時間くらいは、胃の内容物の逆流が起こりやすいといわれています。食後すぐに横になったり、寝る前に食事をとることは避けましょう。


おなかを締めつけないようにしましょう

ベルト、コルセット、ガードル、着物の帯など、おなかを締めつけるものは、身につけないようにしましょう。


禁煙しましょう

タバコは逆流性食道炎を悪くします。禁煙に取り組みましょう。

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11.逆流性食道炎に対する外科的治療

手術適応

 

 逆流性食道炎に対しての治療は基本的に内服薬による治療が中心ですが、内服薬を服用しても症状が持続したり、内視鏡的に食道の炎症が持続する方は手術が適応となります。しかし、食道裂孔ヘルニアという逆流しやすい状態の患者さんは薬物療法では効果はあまり望めず、手術の適応となる方が多くおられます。さらに、長期間にわたって薬物療法を続けるのが困難な方も外科手術の適応となります。

逆流性食道炎(食道裂孔ヘルニア)に対する術式

 逆流性食道炎に対する手術は胃から食道への消化液の逆流を防止するための逆流防止術(いわゆる噴門形成術)を行います。術式は胃の一部を食道に巻き付けて、下部食道に圧の高い部分を形成し逆流を防止することが目的です。 巻き付け方には主に2種類あり、どちらを行うかは年齢や食道の機能による決定します。

 

 また、従来は上腹部を開腹する開腹下噴門形成術が一般的でしたが、最近ではお腹に小さな穴を開けてする手術(いわゆる腹腔鏡下手術)が主に行われる様になってきました。腹腔鏡下手術は開腹手術に比べて、手術時間は延長しますが術後の痛みや食事開始までの期間、入院期間が短くなるとされています。
腹腔鏡下手術には様々なメリットがありますが従来の手術に比べてやや難しく、腹腔鏡下手術で開始しても手術の継続が困難な場合には、手術の安全性確保のために従来の開腹術に変更することもあります。


術中合併症・偶発症

輸血を必要とするような出血は稀でありますが、脾臓や肝臓からの出血が見られることもあります。さらに、脾臓からの出血は一般に止血が行いにくく、脾臓の摘出が必要になることもあります。 その他、食道や胃の損傷による穿孔や癒着や体型により術野展開が不良になり、開腹術へ変更することもあります(5.9%)。


術後合併症

手術死亡率は0.08%程度であり、原因としては逆流性食道炎に関するものではなく、併存する他の疾患によることが多いとされています。  逆流防止手術による逆流防止効果は約90%程度であるとされています。数%に術後に強度の嚥下困難が見られることがあり、内視鏡的に拡張させる処置が必要になることもあります。また、しばらく嚥下困難が持続する方もおられますが、多くは時間とともに軽快していきます。急性の食道裂肛ヘルニア、消化管穿孔、肺炎などの呼吸器合併症、手術部位からの術後出血の危険性もあります。また、後述しますように肺梗塞栓という非常に危険な合併症もあります。
逆流性食道炎の再発は10%程度であるとされていますが、薬物治療で軽減する方が多いです。しかし、様々な原因により再度手術が必要になる方もおられます。再手術の可能性は頻度的には1%程度であるとされていますが、日本ではまだ症例数が少なく不明な点もあります。しかし、いずれにしても良性疾患であり手術の適応に関しては厳密に決定されているわけではなく、症状の改善をめざし、現在の内科的治療より少しでも良くなる可能性のある治療であるとともに、当然合併症もある治療であるととらえていただければいいと思います。本術式でも最終的な手術の適応は患者さんの決定によります。


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