食道がんとは?

 食道がんの病状や手術についてご理解いただくため、1) 食道の機能と構造、2) 食道がんの発生部位と細胞、3)食道がんの進行、4)進行程度(病期)からご説明します。

1)食道の機能と構造

 食道は、のど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ25cmぐらい、太さ2〜3cm、厚さ4mmの管状の臓器です。食道の大部分は胸の中、一部は首(約5cm、咽頭の真下)、一部は腹部(約2cm、横隔膜の真下)にあります。食道は身体の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間にあり、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれています。食道の壁は外に向かって粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれています。食道の内側は食べ物が通りやすいように粘液を分泌するなめらかな粘膜でおおわれています。粘膜の下には筋層との間に血管やリンパ管が豊富な粘膜下層があります。

食道の壁の中心は食道の動きを担当する筋肉の層です。筋層の外側の外膜は周囲臓器との間を埋める結合組織で、膜状ではありません。食道は、口から食べた食物を胃に送る働きをしています。食物を飲み込むと重力で下に流れるとともに、筋肉でできた食道の壁が動いて食べ物を胃に送りみます。食道の出口には、胃内の食物の逆流を防止する機構があります。これらは食道を支配する神経と自身の筋肉の連関により働くしくみとなっています。食道には消化機能はなく、食物の通り道にすぎません。


2) 食道がんの発生部位と細胞

 日本人の食道がんは、約半数が食道の真ん中から、次に1/4が食道の下1/3に発生します。食道がんは食道の内面をおおっている粘膜にある上皮から発生します。食道の上皮は扁平上皮でできているので、食道がんの90%以上が扁平上皮がんです。欧米では胃がんと同じ腺上皮から発生する腺がんが増加しており、現在では半数以上が腺がんです。腺がんのほとんどは胃の近くの食道下部に発生しますが、生活習慣、食生活の欧米化により、今後はわが国でも腺がんの増加が予想されます。扁平上皮がんと腺がんは性格が異なるので資料を参考とする時には注意が必要です。頻度はまれですが、食道にはそのほかの特殊な細胞でできたがんもできます。


3)食道がんの進行

 食道の粘膜から発生したがんは、大きくなると粘膜下層に広がり、さらにその下の筋層に入り込みます。もっと大きくなると食道の壁を貫いて食道の外まで広がっていきます。食道の周囲には気管・気管支や肺、大動脈、心臓など重要な臓器が近接しているので、がんが進行しさらに大きくなるとこれら周囲臓器へ広がります。食道の壁の中と周囲にはリンパ管や血管が豊富です。がんはリンパ液や血液の流れに入り込んで食道を離れ、食道とは別のところに流れ着いてそこで増えはじめます。これを転移といいます。リンパの流れで転移したがんは、リンパ節にたどり着いてかたまりをつくります。食道のまわりのリンパ節だけではなく、腹部や首のリンパ節に転移することもあります。血液の流れに入り込んだがんは、肝臓、肺、骨などに転移します。食道がんがかなり進行して気管、気管支、肺へおよぶと、むせるような咳(特に飲食物を摂取する時)が出たり血のまじった痰が出るようになります。


4) 進行程度(病期)

 食道がんの治療法を決めたり、また治療によりどの程度治る可能性があるかを推定したりする場合、病気の進行の程度をあらわす分類法、つまり進行度分類を使用します。わが国では日本食道学会の「食道癌取扱い規約」に基づいて進行度分類を行っています。各検査で得られた所見、あるいは手術時の所見により、深達度、リンパ節転移、他の臓器の転移の程度にしたがって0〜IV期に分類します。

食道がん進行度分類(食道癌取り扱い規約)

0期:がんが粘膜にとどまっており、リンパ節、他の臓器、胸膜、腹膜(体腔の内面をおおう膜)にがんが認められないものです。いわゆる早期がん、初期がんと呼ばれているがんです。

I期:がんが粘膜にとどまっているが近くのリンパ節に転移があるものか、粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器さらに胸膜・腹膜にがんが認められないものです。

II期:がんが筋層を越えて食道の壁の外にわずかにがんが出ていると判断された時、あるいは食道のがん病巣のごく近傍に位置するリンパ節のみにがんがあると判断された時、そして臓器や胸膜・腹膜にがんが認められなければII期に分類されます。

III期:がんが食道の外に明らかに出ていると判断された時、食道壁にそっているリンパ節か、あるいは食道のがんから少し離れたリンパ節にがんがあると判断され、他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められなければIII期と分類します。

IV期:がんが食道周囲の臓器におよんでいるか、がんから遠く離れたリンパ節にがんがあると判断された時、あるいは他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められたらIV期と分類されます。