胃がんとは?




胃がんとは?

胃の機能とはたらき

 胃は内側から、1.粘膜 2.粘膜筋板 3.筋層 4.漿膜という層構造を作っています。粘膜にはいろいろな物質を分泌する細胞(腺細胞)が存在しています。食べ物が胃に入ってくると胃の筋肉が活発に動き、食べたものと胃液(胃から分泌される消化液)が混ぜ合わされ、どろどろのかゆ状になります。胃の動きにあわせて胃の出口(幽門輪)が開閉し、胃内容を少しずつ十二指腸、小腸へと送っています。
  胃の他のはたらきとしては、血液成分の産生に必要である鉄やビタミンB12の吸収にも関与しています。また、胃酸の強い酸度は消化だけでなく口から入った雑菌の殺菌にも役立っています。


 ▼胃の働き

 ▼胃と周辺機能

胃の働きと機能 胃と周辺臓器

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 ▼胃の壁の構造

胃の壁の構造

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胃の壁は内腔から順に、粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜により構成されています。



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胃がんの発生と原因

 胃がんは胃の一番内側にある粘膜細胞から発生します。胃の粘膜は慢性の炎症が続くと腸の粘膜に似た腸上皮化生と呼ばれる粘膜に置き換わりますが、その粘膜はがん化しやすいといわれています。慢性胃炎を起こすすべての要因は胃がんの原因といえます。食物では塩分の多いものがいけないといわれています。たばこが胃がんの発生に関与することもわかっています。ピロリ菌という胃粘膜にすんでいる細菌が胃がんの原因の一つであることもわかってきました。(この菌は50歳以上の日本人の8割が保菌しています。)いずれにせよこれらのさまざまな刺激により、胃粘膜細胞の遺伝子に傷が付くことで胃がんは発生します。
  胃がんそのものは遺伝しませんが、祖父母・両親・兄弟に胃がんの患者がいる場合、同様の食生活を送っていることから高危険群の一因といえます。また、ある種の遺伝子の傷を治す機構の異常は遺伝することが知られており、その家系においては胃がんや大腸がんが多いことが知られています。


胃がんの発育と進行

がんはその進行にしたがって、大きくさらに深くなっていきます(浸潤)。また大きくなってくると胃のがんのかたまりからがん細胞が離れて、別の場所(臓器)に行き着いてそこで新たにがんのかたまりを作ります(転移)。胃の壁における浸潤の程度が進んでくるにつれ他の臓器へのがんの広がりの頻度は増大します。転移のしかたは、1.リンパ管内へ入ってリンパ節へと広がっていくリンパ行性転移、2. 血管内へ入って肝臓など全身へ転移していく血行性転移、3.胃の壁を突き抜けておなかの壁を内側から覆っている膜(腹膜)へと散らばって転移する腹膜播種性転移の3つがあります。
 粘膜内にとどまっているがんが転移を起こすことは非常にまれです。粘膜または粘膜下層にとどまるがんは早期胃がん、それより深くに浸潤したがんを進行胃がんと呼んでいます。


 ▼胃がんの発育と進行

胃がんの発育と進行

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診断と治療

 胃がんの診断方法には、一般にX線による上部消化管造影検査と内視鏡検査(胃カメラ)があります。その他、がんの拡がりぐあいを見るためにCT、超音波検査、時に下部消化管造影検査などを行います。
 また予定する手術を安全に行うために必要な検査として心電図、呼吸機能検査、血液検査、尿検査などを行います。

1)上部消化管造影検査(レントゲン検査)

バリウムを飲んでレントゲンで撮影する検査です。胃がんの発見だけでなく、がんの存在する位置や狭窄の程度、がんのひろがりや浸潤の程度などを判断するうえで重要な検査です。

2)内視鏡検査

 肉眼形態や色調の変化からがんを発見する検査です。ごく早期の胃がんの多くは内視鏡でないと発見できません。内視鏡検査ではがんの一部を小さくつまみとって、顕微鏡を用いてがん細胞の有無をチェックします(生検組織診断)。がん細胞を顕微鏡で確認して初めてがんと確定診断されます。がんの胃内でのひろがりや入り口と出口までの距離をみることも重要です。内科でこの検査を受けられていても、どれくらい胃を切除するかを決めるためには、外科でもう一度検査させていただくこともあります。
 また、腹腔鏡で手術を行う場合、比較的早期のがんでは胃の外側からがんが見えないため、あらかじめ胃カメラでがんの近くの胃壁に墨汁(0.2ml)を注射させていただきます(点墨)。この点墨により、胃壁に色が付きますので、これを目印に胃を切除します。

3)CT撮影(コンピューター断層撮影)

 身体の内部を輪切りにしたように見ることができるX線検査です。がんの拡がりぐあい、特にリンパ節転移や肝臓などの転移の診断には最も優れた診断法です。がんと周囲臓器との関係を調べるためにも重要です。ヨード造影剤を用いた造影CTをとる必要がありますが、まれにアレルギーを起こす方がおられますので、造影検査について主治医よりの説明を聞いてください。

4)腹部超音波検査

  超音波検査は肝臓への転移や腹部リンパ節転移の有無、腹水貯留の有無などを検索します。比較的楽な検査です。

必要な検査

 胃がんの診断方法には、一般にX線による上部消化管造影検査と内視鏡検査(胃カメラ)があります。その他、がんの拡がりぐあいを見るためにCT、超音波検査、時に下部消化管造影検査などを行います。
 また予定する手術を安全に行うために必要な検査として心電図、呼吸機能検査、血液検査、尿検査などを行います。

1)上部消化管造影検査(レントゲン検査)

バリウムを飲んでレントゲンで撮影する検査です。胃がんの発見だけでなく、がんの存在する位置や狭窄の程度、がんのひろがりや浸潤の程度などを判断するうえで重要な検査です。

2)内視鏡検査

 肉眼形態や色調の変化からがんを発見する検査です。ごく早期の胃がんの多くは内視鏡でないと発見できません。内視鏡検査ではがんの一部を小さくつまみとって、顕微鏡を用いてがん細胞の有無をチェックします(生検組織診断)。がん細胞を顕微鏡で確認して初めてがんと確定診断されます。がんの胃内でのひろがりや入り口と出口までの距離をみることも重要です。内科でこの検査を受けられていても、どれくらい胃を切除するかを決めるためには、外科でもう一度検査させていただくこともあります。
 また、腹腔鏡で手術を行う場合、比較的早期のがんでは胃の外側からがんが見えないため、あらかじめ胃カメラでがんの近くの胃壁に墨汁(0.2ml)を注射させていただきます(点墨)。この点墨により、胃壁に色が付きますので、これを目印に胃を切除します。

3)CT撮影(コンピューター断層撮影)

 身体の内部を輪切りにしたように見ることができるX線検査です。がんの拡がりぐあい、特にリンパ節転移や肝臓などの転移の診断には最も優れた診断法です。がんと周囲臓器との関係を調べるためにも重要です。ヨード造影剤を用いた造影CTをとる必要がありますが、まれにアレルギーを起こす方がおられますので、造影検査について主治医よりの説明を聞いてください。

4)腹部超音波検査

  超音波検査は肝臓への転移や腹部リンパ節転移の有無、腹水貯留の有無などを検索します。比較的楽な検査です。

進行度

 がんの進み具合の表しかたを進行度(ステージ)といいます。
 ステージはがんが胃の壁に入り込んだ深さ(深達度)、どこのリンパ節まで転移が及んでいるか(リンパ節転移の程度)、肝臓や肺など大腸以外の臓器や腹膜にまで転移しているか(遠隔転移)の組み合わせで決められています。
  ステージ1Aは最も早期で、ステージ4はがんが最も進行した状態です。治療前にがんのステージを正しく判定することは、治療方針を立てる上で非常に重要です。


進行度

ステージ1A :最も早期の胃がんで、がんが粘膜または粘膜下にとどまっており、リンパ節への転移がみとめられないものです。手術でなく内視鏡治療で治る場合も多いです。

ステージ1B :がんは胃の壁の浅い層にとどまっていながら胃に接したリンパ節にのみ転移があるもの、または、胃壁の筋層・漿膜下まで浸潤しているものの表面には出ていないでリンパ節への転移は認めないものです。治る可能性が極めて高いがんです。

ステージ2 :中くらいに進んだがんで、手術により治る可能性が高いがんです。

ステージ3A・3B :胃の壁を越えて隣接臓器に浸潤していたり、少し離れたリンパ節に転移しているがんです。進行はしているが手術およびその後の治療で治る可能性のあるがんです。

ステージ4 :胃がんが進行して他の臓器や遠くのリンパ節に転移を起こしている状態です。

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進行度別治療

 胃がんの治療には大きく分けて、4つの治療法があります。それは、1.内視鏡治療、2.手術、3.抗がん剤治療、4.その他(免疫療法など)です。
  胃がん治療ガイドラインをふまえた、当院における胃がんの進行度に対応する治療法の選択(適応)はおよそ以下の表になります。ただ、手術に関しては最近では腹腔鏡下手術が広く行われるようになりつつあり、後述するとおり日本有数の経験数を有する当院ではやや進行したがんの方に対しても腹腔鏡下手術を行っています。
  ただし、これはあくまで目安であり、実際は病気の状態や体力をよく調べてから、十分に説明させていただいたうえで、それぞれの患者さんに一番適した治療法を受けていただきます。ご本人が望まない治療を無理に受けることはありません。


進行度表

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胃がんの治療法

◆ 内視鏡治療 ◆

 内視鏡治療は、内視鏡で見ながら胃の内側からがんを含む粘膜を切り取る方法です。この方法をおこなうにはがんが粘膜までにとどまっていることと、リンパ節転移のないことが必要です。がんが胃の粘膜にとどまっており、大きさが2cm以下で、顕微鏡で見た組織型(がん細胞の顔つき)が分化型といわれるものであればリンパ節転移はほとんどないことがわかっており、内視鏡治療の絶対適応となります。最近では、2cmを超えるがんでもリンパ節転移の可能性がほとんどないと考えられる粘膜がんに対しては、この治療が行われるようになっています。このような症例で内視鏡治療と手術のどちらを選ぶかは、患者様が専門医から詳しい説明を聞き、納得できる治療法を選んでください。内視鏡治療で切除した組織を顕微鏡で検査した結果、治療前の診断よりもがん病巣がより深くに及んでいればリンパ節転移が存在する可能性もあり、リンパ節を取り除く手術をお勧めしています。特殊な場合としてはがんがリンパ節に転移している可能性があっても患者さんの体力が手術に耐えられないと診断した場合、内視鏡による治療が行われることもあります。


・内視鏡的粘膜切除術の合併症

粘膜を切除した際に出血することがあり、このような時には胃カメラで見ながら特殊なクリップをかけて止血します。出血量が多いと輸血が必要になったり、どうしても止血できない時は緊急手術が必要となることがごくまれにあります。粘膜切除の際、深く切除しすぎると胃の壁に穴が開くこと(穿孔)もあります。穿孔した場合でもほとんどは保存的治療で治癒しますが、大きな穿孔であった場合などは緊急手術を要することもあります。


内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)

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◆ 外科療法  ◆

・手術の種類

 手術は身体からがんを切りとってしまう方法で、胃がんに対する最も一般的な治療法です。がんの手術では通常、胃の切除と同時にリンパ節を含む胃周囲の組織も切除します(リンパ節郭清)。胃を切除した後には食物の通る新しい道を再建します。胃を切除する範囲によって幽門側胃切除術・噴門側胃切除術・胃全摘術などにわけられます。また、お腹の切りかたから、大きく切る従来からの方法(開腹術)と腹腔鏡下手術にわけられます。


腹腔鏡下胃切除術

 この手術は、お腹の中に小さな穴から腹腔鏡というカメラと特殊な手術器具を挿入し、テレビモニターを見ながら胃がんを切除する方法です。この手術は、傷を小さくすることおよびからだの負担を軽減することで、患者さんにやさしい手術といえます。
ただ技術的には難しくなるため、胃がん治療ガイドラインでは“リンパ節転移が軽度である早期胃がん”が適応とされていますが、最近の技術の向上に伴い、腹腔鏡下手術においても開腹術とほぼ同等のリンパ節郭清が行えるようになったため、進行がんに対してもこの手術を行う施設が増えています。
当センターでは、腹腔鏡下胃切除術を内視鏡外科学会技術認定医の指導のもとに積極的に行っており、その手術件数は全国でも有数です。
がんがかなり大きい場合や明らかなリンパ節転移が数多く認められる場合以外は、この腹腔鏡下胃切除術を第一選択としています。ただし、安全に手術をおこなうことが最も大切ですから、腹腔内の癒着が強かったり、その他の理由で腹腔鏡下手術では危険が生じる可能性があると判断した場合は、その手術中に開腹術に切り替えることもあります。

手術創のちがい
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腹腔鏡下手術の様子と
手術創


↑注意↑
実際の手術画像をご覧いただくことができます。
このような画像で気分が悪くなる可能性の
ある方はお気をつけください。


腹腔鏡下手術の長所_短所

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■幽門側胃切除術

  胃の幽門側2/3から4/5を切除し、さらに周囲のリンパ節を郭清する手術で、胃がんの多く(約8割)は胃のまん中から幽門部より(胃の幽門側2/3)に発生しますので最も多く行われる術式です。食べ物の通り道を再建する方法としては残った胃の断端と十二指腸の断端を寄せて直接つなぐ胃十二指腸吻合法(ビルロート1法)や十二指腸の断端を縫合閉鎖して胃の断端と小腸をつなぐビルロート2法(+ブラウン吻合)ルーワイ吻合法などがあります。


切除範囲

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切除範囲

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■胃全摘術

  がんが小さくても噴門(胃の入り口)に近いところに存在したり、胃全体にがんが広がっている場合には胃全摘術が必要となります。広い範囲のリンパ節を郭清するために、胃の左側に隣接する脾臓を合併切除することもあります(後述)。当科でよく用いる再建法は小腸を一か所切離し、その下方の小腸を持ち上げて食道断端とつなぎ、さらにそこから約40cm下方でもう一方の小腸断端とつなぐルーワイ吻合です。


胃全摘術_切除範囲_ルーワイ吻合

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■噴門側胃切除術

  胃の入り口側(噴門側)1/3にできた主に早期胃がんに対し用いられる術式です。できるだけ胃を残して胃の貯留能を残そうとする術式ですが、食道と残った胃の断端を直接つなぐと、食べたものや腸液が食道に逆流して逆流性食道炎が起こり、強い胸やけが生じことがあるため、当センターでは消化管の再建としては、小腸の両端を切って持ち上げて食道断端と残った胃をつなぐ方法(ダブルトラクト法、空腸間置法)を用いています。


噴門側胃切除術_切除範囲_ダブルトラクト法_空腸間置法


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■試験開腹術およびバイパス術

  高度の肝転移や腹膜播種性転移をともなっている場合やがんの他臓器への浸潤が強く切除困難であった場合には、胃を切除しないでそのまま手術を終えたり、食べ物ががんの部位を通らないように新しい通り道を作る手術(バイパス術)のみをおこなうことがあります。これは胃切除によって体力を低下させるよりは、早く食事ができるようになって抗がん剤などの他の治療を早く始めるほうが患者さんにとって良いからです。(ただし、がんからの出血が続いているような場合は、高度な転移があっても胃を切除することがあります。)


試験開腹術およびバイパス術

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・他臓器合併切除について

 以下のような場合には胃周囲の他臓器(全部またはその一部)を合併切除することがあります。

 ・がんが直接他臓器に浸潤している場合・・・膵臓・肝臓・大腸など
 ・リンパ節郭清のために摘出が必要・・・脾臓・膵臓など

・手術創とドレーン

  おなかの切開創は、基本的には埋没縫合胃の手術をおこなった後には、ドレーンという柔らかい直径1cmぐらいのチューブをお腹の中に幽門側胃切除では1本、噴門側胃切除や胃全摘では2本留置して、お腹の中にたまった血液や浸出液を体の外に出すようにしています。
  このチューブのおかげで術後にお腹の中で何が起こっているかがわかる大事な管です。また、縫合不全(後述)が起こった場合には、お腹の中に漏れた汚い液をからだの外に排出する役目をします。手術後に食事を始めて問題が無ければ固定の糸を切って簡単に抜けますので、それまでは引っ張ったりして抜けないように注意してください。

手術創とドレーン

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術後経過とクリニカルパス

 当院では、胃がん手術をうけられる方にクリニカルパスとよばれる、病気を治すうえで必要な治療・検査やケアなどを日付別に示した診療スケジュール表を用いて治療していきます。
 幽門側胃切除術の方と噴門側胃切除および胃全摘術の方は別々のクリニカルパスになっていますが、基本的にはそれぞれのクリニカルパスの日程に準じて、幽門側胃切除術の方は術後2日目から、噴門側胃切除術および胃全摘術の方はでは3日目から水分摂取が可能となり、つづいて粥食が始まります。経過によっては、吻合部がうまくつながっているかどうかを検査します。食事が食べられるようになるまでは点滴により水分と栄養を補います。順調に経過すれば術後2週間以内で退院となりますが、食事摂取は元通りというわけではなく、胃がなかったり小さくなっていますから、しばらくは一回に食べる量を減らして1日の食事回数を5回程度に増やしていただくこともあります。
 ただし、クリニカルパスは、あくまで標準的なスケジュールを示したものなので、各個人の体質や病状、治療内容(術式の違いや合併症の発生)によっては、スケジュールどおりにいかないこともしばしばあり、またそういったことも十分考慮されてつくられていますので、たとえスケジュールからはずれることがあったとしても、心配する必要はありませんし、改めて以降の治療の見込みについて説明させていただきます。


クリニカルパス

合併症について

  胃がんに限らずあらゆる手術の術後に、望まない不都合な状況が発生することがあります。これを合併症といいます。手術後の合併症には、手術操作とは関連なく発生する肺炎、心臓病、肝機能障害などの一般的(全身的)合併症と手術関連して発生する外科的合併症(出血、縫合不全など)があります。合併症は、医療過誤や過失によるものではなく、同じ医師が同じように注意深く手術をしても一定の割合で発生します。また、患者さんの年齢、全身状態、併存する持病(糖尿病、高血圧、心臓疾患、呼吸器疾患、肝臓疾患など)の影響を大きく受けます。これらの合併症により不幸にして命を落とされる方(手術死亡率)も1%ほどと報告されています。

出血:

胃がん手術の際の術中出血量はがんの部位や進行度、患者さんの状態によって変わりますが、出血量が多い場合には輸血が必要となります。日本赤十字社から安全が確認された血液を必要最小限度のみ輸血させていただきますが、この輸血も100%安全なものとは言えません(輸血の説明書を参照)。また、術中には止血していた部位から、術後に出血が起こって再手術(止血術)が必要となることがあります(再手術を要する頻度は1%以下)。

感染:

胃や腸の中には無数の細菌がおり、これらの菌によりお腹のキズ(創)やおなかの中に膿が溜まることがあります(創感染)。予防的に細菌を殺す薬(抗生物質)を投与していますが、手術後にこれらの細菌がはびこるのを完全に防ぐことはできません。この場合、縫った糸をはずしたり、おなかの中に管を入れたりして膿を出すと治ります。これは手術の5〜10%に合併します。

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縫合不全:

食道断端や胃断端と十二指腸・小腸などを繋ぎ合わせる(吻合する)際には多くの場合、特殊な器械(自動吻合器)を用いて行いますが、この吻合部から内容液(腸液など)が少し漏れることがあります(頻度は食道空腸吻合で5%程度、他の吻合では1%程度)。多くの場合、術中に留置しておいた管(ドレーン)からその内容物や膿が外に出て、絶飲食で縫合不全部が自然治癒するのを待ちますが、どうしても傷がふさがらない時には再手術を要する可能性もあります。

吻合部出血:

つなぎ合わせた腸の縫合部から腸管内に出血することで、出血が続き貧血が進む場合は、内視鏡で止血することがあります。それでも止血しきれない場合には再手術で止血する場合もあります。

通過障害、吻合部狭窄:

吻合部のむくみや腸の動きのぐあいで食べたものがうまく腸に流れて行かないことがまれにあります。多くは術後一過性に生じ、ほとんどは自然に軽快しますが、まれに内視鏡による拡張術などの治療を要することがあります。

膵炎・膵液瘻(ろう):

術中の操作で膵臓を圧迫することや膵臓周囲のリンパ節を郭清することが原因で膵炎を起こしたり、膵液(消化液)が腹腔内に漏れること(膵液瘻)があります。膵液瘻が起こるとドレーンを抜く時期が遅れます。

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癒着による腸閉塞:

おなかの手術をすると、程度は人それぞれ違いがありますが腹腔内の臓器同士が癒着します。この癒着により、腸がつまった状態(腸閉塞)が起きることがあります。排便・排ガスがみられず、嘔吐や腹痛などの症状がみられます。多くの場合、絶食・点滴で治癒しますが、ひどい場合には手術が必要となります。

肺塞栓:

長時間の手術や腹腔鏡による手術は脚の静脈に血のかたまり(血栓)が生じやすく、この血栓が肺動脈に流れて閉塞する疾患です。(頻度は1%以下)。これにより呼吸困難などの症状を呈し、死亡することもあります。予防策として、弾性ストッキングの着用や脚の間欠的空気圧迫法(マッサージ)を行っています。

アレルギー:

手術の際に使用する色々な薬剤が原因でアレルギーを起こすことがあります。ひどい場合には血圧が下がり、手術を延期することもあります(頻度は1%以下)。

肺炎・無気肺:

全身麻酔の影響で術後は痰が増えますが、痛みの影響で痰がうまく出せなかったり、大きな呼吸ができないでいると、無気肺(部分的に肺が膨らまない状態)が起こり肺炎になります。肺炎が悪化すれば、呼吸不全となり人工呼吸器の装着を要することもあります。肺炎を予防するために禁煙を厳守してください。

その他:

上記以外にも腸炎や抗生物質などによる肝機能障害、術後せん妄(痴呆ようなの症状)、さらには成人病のひとつである脳梗塞、心筋梗塞など、ここでは十分な説明ができていない色々な合併症が発生する可能性もあります万一、このような合併症が生じた場合は、詳しく説明させていただいたうえで、できるだけ早く回復されるように最大限の努力いたします。

術後経過

◇食事摂取における注意点◇

  ・一回の食事量を減らして、食事の回数を多くする。

  ・毎日バランスよく食べる。

  ・消化吸収の良い、食品調理法を選ぶ。

  ・よくかんでゆっくり食べる。

  ・食べるとすぐにお腹が張る方は固形物を先に流動物を後に食べる。

一日の食事摂取量が十分でない時は濃厚流動食でカロリーを補給していただくことがあります。

◇手術後の症状と異常について◇

体重減少:

多くの方で術後数か月に10〜15%の体重減少がみられます。

下痢:

腸への食べ物の流れ込みがはやくなったり、お腹の神経がうまく働かなくなったりして消化吸収のバランスをくずし、時に下痢をきたすことがあります。胃の手術後10%程度にみられますが、ほとんど1年以内におさまります。

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早期ダンピング症候群:

食後30分以内におこり腹部症状(腹痛・復鳴・腹部膨満・吐き気・おう吐など)と全身症状(冷や汗・動悸・めまい・眠気・脱力感・頭痛・顔が赤くなるなど)がみられます。食べ物が急激に小腸に流れ込むことが原因でおこります。症状がおきたら横になるとよく、また、食事摂取法(上記の注意点)によりある程度は予防が可能です。腸の動きを弱くする薬の服用も有効です。

晩期ダンピング症候群:

食後2〜3時間に血糖値が低下するために生じます。脱力感・めまい・動悸・息切れ・冷や汗・手のふるえなどの低血糖症状がみられます。症状が出現したら、早めに糖分(甘い飴やジュースなど)をとることで予防できます。

腸閉塞:

術後に腸管が癒着し、ねじれが生じることなどが原因でおこります。多くの場合は入院絶食のうえ、鼻からチューブを腸内まで留置して溜まった腸液を抜いてやれば良くなりますが、これで治らない場合には手術が必要となることもあります。

逆流性食道炎・残胃炎:

手術で胃の入り口が切除されたり、胃や食道と腸が吻合されたりすると、食べたものや消化液が逆流して食道や残った胃に炎症をおこすことがあります。胸やけ・吐く・みぞおちの痛み・食事が通らないなどの症状がみられます。就寝直前の食事をさけたり、お薬で予防していきます。

貧血:

鉄分や蛋白質の不足、胃全摘術によるビタミンB12の吸収障害によって生じます。

化学療法(抗がん剤治療)

抗がん剤治療はがん細胞を殺す薬を内服したり注射したりします。抗がん剤は血液の流れに乗って手術では切除できないところなど全身に行きわたります。
抗がん剤治療は 1)手術後の再発予防、2)進行がんに対する手術前の治療、3)肝臓や肺など他臓器への転移に対する治療としておこなわれます。

1)手術後の再発予防(術後補助療法)

  いくら手術で取り切れたように見えても、目に見えないがん細胞が残っている可能性があり、これが再び増えると再発ということになります。いわゆる再発予防のための投与ですが、すべての患者さんにとって必要というわけではなく、不必要な方もおられます。また、あきらかに手術でとりきれなかったがん病巣が体内に残っている患者さんもおられます。当センターでは手術所見や病理組織検査をもとに下記の治療法を選択しています。

  1.抗がん剤なし

  2.ユーエフティーなどの比較的軽い経口抗がん剤による治療

  3.ティーエスワンという比較的強い経口抗がん剤による治療

  4.ティーエスワンや点滴による抗がん剤
    (シスプラチン、タキソール、カンプトなど)を組み合わせた治療

2)進行がんに対する手術前の治療(術前化学療法)

  進行胃がんでは、手術する前に抗がん剤治療を行って、できるだけがんを小さくしてから手術を行うこともあります。通常は外来通院で行いますが、この治療のみ関連の病院で行っていただくこともあります。術前化学療法に必要な期間は約1〜数か月です。ほとんどはティーエスワンが基本で、シスプラチンなどの点滴を併用します。この治療が終了して、副作用が消失したのを確認したのちに手術を行います。

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3)切除できない進行再発胃がんに対する化学療法

  手術でがんをとりきれない患者さんや再発した患者さんに対しては抗がん剤による化学療法が治療の中心となります。抗がん剤にはいくつかの種類があり、多くの場合、何種類かの抗がん剤を組み合わせて使用します。よく用いられる抗がん剤としては、ティーエスワン、5-FU、シスプラチン、タキソール、カンプト、タキソテールなどがあります。それぞれの患者さんや腫瘍の性質によって抗がん剤の効き目や副作用の程度が異なりますが、これは実際に投与してみないとわかりません。よって抗がん剤治療を行いながら、その効果と副作用の程度で抗がん剤の種類を変更していきます。

■抗がん剤の副作用■

  最も注意が必要な副作用は血を作っている骨髄が抗がん剤によって障害され、白血球、赤血球、血小板が減少します。白血球が減少すると感染に対する抵抗力が低下し、肺炎などの感染症にかかりやすくなることがあります。赤血球減少は貧血となり、血小板減少は出血しやすくなります。抗がん剤投与中は定期的に血液検査を行い、これらの副作用が強く現れる前に抗がん剤投与を中止して、必要な場合にはこれらに対する治療をおこないます。
  その他の副作用としては下痢、口内炎、はき気、食欲不振、全身倦怠感、脱毛、手足のあれ、シミなどが認められることがあります。
  これらの副作用の程度には個人差があり、実際には投与してみないとわかりません。また、効果と副作用は比例するものではなく、副作用がないのに非常に効果がある場合もあれば、副作用ばかり強くて効果が少ない場合もあります。

治療後の通院と検査

  手術前に行ったX線検査やCTでは、微小ながん細胞は100%とらえることができず、手術でがんを全部取り切ったと判断しても、少数のがん細胞が体内に残っていることがあります。再発とは、手術後その残っていたがん細胞が少しずつ大きくなって目に見えるようになることです。
  そこで、手術でがんが完全に取り切れたとしても、再発発見のためにステージによっての間隔の違いはありますが、手術後定期的に診察および検査を受けていただきます。退院当初は1〜2か月に1度の診察ですが、経過をみて再発も無く、からだの調子も良好な場合には診察の間隔は徐々に長くしていきます。
  また、ステージ2の方とステージ3の方には、再発予防の目的で、術後の一定期間抗がん剤を内服していただくこともあります。5年以降でがんの再発することはほとんどありませんので、その時点で再発や転移を認めない場合、通院を終了していただきます。
  またステージ4の方や、再発がみられ抗がん剤治療が必要な方には、部位、症状、初回治療法およびその効果などを考慮して治療法を選択します。もう一度手術を行うことはまれで、ほとんどは抗がん剤治療となります。抗がん剤治療は、当院臨床腫瘍科や関連施設で受けていただくことになります。また、がんによって生じる体の不調(痛みや苦しみ)や心の問題(不安やうつ状態)にたいしては、緩和医療科による緩和ケア(つらくないようにがんと付き合っていくための方法)を受けていただきます。
  術後の通院については基本的には、当センターとかかりつけ医療機関やご近所の医療機関との間で、患者さんの詳細な情報・状態・治療経過などのやり取りをしながら(地域連携医療といいます)、診察・投薬はかかりつけ医療機関やご近所の医療機関で受けていただき、定期検査を当センターで受けていただくようにしています。

=参考 資料・文献=
◇ 大阪市立総合医療センター 消化器外科  患者さん用説明書
◇国立がんセンターホームページ

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