胃がんに対するロボット支援手術(ダヴィンチ手術)

手術支援ロボット ダヴィンチとは

 腹腔鏡手術は開腹手術と比べるとさまざまな長所がありますが、短所もあります。腹腔 鏡手術で使われる手術器具は長い棒状のものであり、言わばお箸を使って手術をするよう なものです。当然、開腹して通常の手術器具を使うほうがはるかに簡単です。難度の高い 手術を行うにはより高度な技術が必要となってきます。このような背景のもと、登場した のが手術支援ロボット ダヴィンチサージカルシステム(以下、ダヴィンチ)です(図1)。


図1:ダヴィンチサージカルシステム
(左よりサージョンコンソール、ペイシェントカー ト、ビジョンカート)

 ロボット手術は腹腔鏡手術と基本は同じで、お腹に小さな孔を開けてそこからカメラや手 術器具がついたロボットアームを挿入しますが、このアームの先端には前後左右に 540 度 動く小さな関節がついています(図 2)。



図2:ロボットアーム

 アームにつける手術器具(インストゥルメント)には、用途に応じて、電気メス、ハサミ、 縫合用のニードルドライバー、自動縫合器など 50 種類以上のタイプが用意されています。 術者は「サージョンコンソール」とよばれる操縦席に座り、3D画像を見ながら手元のコ ントローラーでロボットアームを操縦します(図 3)。



図3:サージョンコンソールとコントローラー

 ロボット手術の基本手技は腹腔鏡手術とほぼ同じですので、腹腔鏡手術の経験をそのまま 生かすことができます。ダヴィンチのその他の機能としては、「モーションスケーリング機能」「手ブレ防止機能」などがあります。「モーションスケーリング機能」とは人間の 手の動きを 1.5 分の1、2 分の1、3 分の1のスケールに縮小してロボットアームに伝える 機能です。例えば 3 分の1に設定した場合、執刀医がコントローラーを 6cm 動かした時、 アームの先端は 2cm だけ動きます。これらの優れた機能により従来の腹腔鏡手術に比べて より緻密な作業を正確かつ安全に行なうことが可能です。



胃がんに対するロボット手術の現状

 2012 年、泌尿器科領域の前立腺全摘術に対してロボット手術が初めて保険適応となりま した。前立腺手術にダヴィンチを用いると従来の内視鏡手術に比べて繊細な操作を簡単に 行えるようになったため、現在ではロボット手術が標準術式となり広く普及しています。 一方、胃がん手術は胃という大きな管腔臓器を対象とするため取り回しが難しく、操作範 囲も広くなってロボットアーム同士の干渉が問題となります。また、リンパ節の掃除(リ ンパ節郭清)や胃切除後の再建など細かい作業も多いため、前立腺手術のようにダヴィン チが手術を容易にするわけではありません。胃がんにおけるロボット手術は手術を容易に するというより、腹腔鏡手術を超える精度の高い手術を可能にする手段であるというのが 個人的な見解です。2014 年から先進医療として行われた臨床試験にて術後合併症を有意に 減少させることが証明され、2018 年の 4 月にようやく保険適応となりました。

 胃がんに対するロボット手術が保険適応となった現在、消化器外科医なら誰でもすぐに ロボット手術ができるというわけではありません。消化器外科領域におけるロボット手術 を安全に導入・普及させるため、日本内視鏡外科学会がロボット手術を行える外科医の条 件を指針として公表しています(表1)。

1.ダヴィンチ手術トレーニングコースを受講し、
 certificate(ダヴィンチ手術認定医)を取得していること。

2.消化器外科専門医であること。

3.日本内視鏡外科学会が定める技術認定医であること。

4.20例以上の腹腔鏡下胃切除術の執刀経験を有すること。

表1: 日本内視鏡外科学会によるロボット支援下内視鏡手術導入に関する指針(抜粋)



 この条件をクリアできた医師がロボット手術を行うことができます。受講することが必須 となっているダヴィンチ手術トレーニングコースの内容は、1.オンライントレーニング、 2.オンサイトトレーニング、3.オフサイトトレーニング、4.症例見学からなってお り、症例見学は全国に 8 か所ある胃がんのメンターサイト(症例見学指定施設)のいずれ かで行うとダヴィンチ手術認定証が取得できます(図4)。

 当センターは 2017 年、和歌山県で初めて胃がんに対するロボット手術を導入しました。 導入当初は保険適応がなかったため、自由診療にてこれを行いました。その結果、現在で は当センターの技術力とチーム力が認められ、前述の胃がんロボット手術のメンターサイ トに認定されています(図4,5)。

 また、日本内視鏡学会が勧めるプロクター(指導医)として他の施設でロボット手術の指 導も行っています(詳しくは日本内視鏡外科学会ホームページ http://www.jses.or.jp/ をご覧ください)。このように当センターは胃がんに対するロボット手術において全国的 な指導的立場としての役割を担っています。


図4 胃がんロボット手術のメンターサイト


図5 メンター証書





胃がんに対するロボット手術の現状

 胃がんに対する腹腔鏡手術はその技術を磨き経験を積むことで、進行がんに対しても開 腹手術に比べてより繊細でかつ確実な手術が行えると考えています。このため、日本赤十 字社和歌山医療センターでは開腹手術はほとんどなく、ほぼ全例を腹腔鏡手術で行ってお り治療成績も良好です。このような状況のもと、2018 年からロボット手術が保険適応とな りました。それでは腹腔鏡手術とロボット手術、どちらが良いのでしょうか?これはそれ ぞれの術式の適応が施設により異なるため、一概には言えません。現在、多くの施設が胃 がんに対するロボット手術を導入しようとしています。以前、腹腔鏡手術が導入された時 と同様、ロボット手術の適応は比較的難度の低い早期胃がんを対象にしていることが多い と思われます。あくまでも個人的な見解になりますが、早期胃がんに対する腹腔鏡手術は、 経験豊富な施設で行えば手術成績は非常に良好であり、ロボット手術で行う必要性はほと んどないと思います。ロボット手術のほうが病院が負担する手術コストも高くなります。 ロボット手術は腹腔鏡手術を超える精度の高い手術を可能にする手段であるため、より難 度の高い進行胃がんに対する手術にメリットが出てくると考えています。よって当センタ ーでは基本的に比較的早期の胃がんに対しては腹腔鏡手術、より進行した胃がんに対して はロボット手術を適応として患者さんに説明し、患者さんの希望も考慮しながら術式を決 定しています。

実際の手術画像

 注)ここから先のページでは、実際の手術画像をご覧いただくことができます。このような画像で気分が悪くなる可能性のある方はお気をつけください。

 

*本サイト内のコンテンツは全て患者様もしくはご家族の承諾を得て掲載しています。