吉田幸彦
Yukihiko Yoshida
DR.Yukihiko Yoshida'S WEB SITE 名古屋第二赤十字病院 循環器内科 難治性不整脈の治療
不整脈へのカテーテル治療

カテーテル治療とは

日本で初めてカテーテルアブレーションの治療が行われたのは、1989年のことで20年以上の歴史ある治療法です。

カテーテルと呼ばれる細い管を鼠蹊部(足の付け根)または首の血管から挿入し、血管を通しながら心臓まで持っていきます。

心臓内で不整脈の原因となっている異常な電気信号を発生している箇所や、電気信号が旋回するような回路をカテーテルの先からでる約60度の高周波によって焼灼します。

焼灼することをアブレーションといい、この治療法を高周波カテーテルアブレーションといいます。

アブレーションすることによって悪い部分の細胞は壊死し、異常な電気信号は流れなくなるため、不整脈を起こさないようになります。

開胸手術ではないため、患者さんの体への負担が少ないことが特徴です。

不整脈と同時に別の心臓病を合併しているような場合は開胸手術で行うこともありますが、そのような場合を除けば、当院では99%の割合で血管内治療であるカテーテルアブレーションにより行われています。

カテーテルアブレーションは心房細動をはじめとし、おもに頻脈性不整脈の治療に用いられています。




冷凍凝固アブレーション(クライオアブレーション)

以前より冷凍凝固することによるアブレーション治療というのは行われてきていました。

しかし、クライオアブレーションと呼ばれるカテーテルを使用しての冷凍凝固による治療法は新しく、日本においては2014年7月より治療が始まっています。

従来のカテーテルアブレーションと同じく、鼠蹊部や首から風船がついたカテーテルを心房細動の主な原因とされる4本の肺静脈の入り口部分まで挿入します。

そこでカテーテルについている風船を膨らませます。

従来のように温めるのではなく、冷却材により急激に冷やすことによって、膨らんだ風船が触れている部分の細胞は冷却され瞬間に壊死します。

壊死した心臓の細胞には電気が流れなくなり、不整脈が起きないようにするという治療法です。

従来の高周波カテーテルアブレーションではカテーテルの直径は約4mmのため、一度に治療できる範囲は4mmよりも少し大きい焼灼層の6mm程度です。

それと比べるとクライオアブレーションのカテーテルの風船サイズは28mmのため、一度に治療できる範囲が広く大きくなります。

このことにより、従来のカテーテルアブレーションよりも治療時間が短くなることがメリットです。

また、クライオアブレーションのほうが治療中の痛みが少ないと言われています。

この治療方法は心房細動の治療としておもに用いられています。

現在のところ、再発率などに従来のカテーテルアブレーションとの差はほとんどないと報告されています。

 

高周波ホットバルーン

高周波ホットバルーンによるアブレーションは今、注目されている新しい治療法の一つです。

葉山ハートセンターの佐竹修太郎先生により開発されたメイドインジャパンの治療法で、2016年4月より保険適用治療となりました。

クライオアブレーションは風船のついたカテーテルを使って冷却する治療と説明しましたが、ホットバルーンは高周波によって温めた風船による治療法です。

治療の方法は、クライオアブレーションと基本的には変わりませんが、風船がついたカテーテルを肺静脈の入り口部分に押し当てて風船を高周波により温め焼灼します。

高周波の温度は従来の高周波カテーテルアブレーションと変わらず、60-70度ほどです。

風船によりアブレーションするため、一度に広く大きい範囲の治療が可能となり、治療時間の短縮につながっています。

ホットバルーンの場合、風船のサイズを肺静脈の血管の形態に合わせてサイズを小さく大きくと自由に変形することできるのが特徴です。

太い血管の患者さんや細い血管の方にも合わせて1本のカテーテルで対応できるというのがホットバルーンの優れている点です。

ホットバルーンの治療は発作性心房細動の患者さんに対して行われています。

 

体への負担・治療後について

三種のアブレーションに共通していえることですが、治療は局所麻酔により意識を落とした状態で行われます。

よって手術中に感じる痛みに関しては、実際治療をしていてもあまり差はないと感じています。

カテーテル治療を行う前後の期間には血栓予防のための薬を服用していただいています。

血栓を予防するため、2週間くらいは汗をたくさんかくような激しい運動は避けてください。

退院後は仕事への復帰など、普段通りの生活に戻ることが可能です。

 

開胸手術よりはリスクは少ないとはいえ、カテーテル治療にはリスクがあります。

しかし、命に関わるようなリスクではなく合併症であり、さまざまな研究によりその割合は1.5%と言われています。

合併症の一つとしてあげられるのは、術中の脳梗塞です。

カテーテルを使用することにより血栓ができやすくなり、その血栓が脳まで運ばれると脳梗塞を起こしてしまいます。

このようなリスクを防ぐため、最近ではカテーテルの中を生理食塩水が流れていて血栓ができにくくなっており、脳梗塞のリスクはほぼなくなっていると言われています。

もう一つの合併症としては、カテーテルを心臓に押し当てて治療をしていくため、その圧力で穴が空いてしまい、出血を起こす場合があります。

これを心タンポナーデといいます。

心タンポナーデを起こした場合は、止血と出血した血液を抜くことで対処します。

また、カテーテルを挿入した部分の周囲に内出血が起きるため、術後に少し違和感を感じる場合もあります。

 

治療後一年の時点で平均すると20%弱の患者さんは再発し、2回目のカテーテル治療を必要としています。

再発していない患者さんの中には、抗不整脈薬などの薬剤治療を続けられている方もいます。

一度のカテーテル治療では半数の方が再発すると言われているくらい、心房細動に関しては根治の難しい病気といえますので、患者さんにはカテーテル治療に関して十分にご理解をしていただき治療に当たっています。