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未破裂脳動脈瘤

はじめに

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「あなたの頭の中には動脈瘤があります」と聞いたらだれでも不安になりますよね。破裂するとくも膜下出血となり、命を落としたり、重度の後遺症となることもあると聞けば、ますます不安は募ります。
でもすべての動脈瘤が破裂するわけではありません。むしろ一生破裂しないことの方が多いのです。
自分の動脈瘤がどれくらいの確率で破裂するのか?適応可能な手術法と、それぞれの利点と欠点などについて正確な知識を持った上で、治療を受けるかどうかを決定すべきです。
脳動脈瘤は成人の2-5%に存在するとされており、非常に多い病気でありながら、破裂予防法は手術しかないため大変悩ましい病気です。ここで詳しく説明します。

症状

未破裂動脈瘤は症状のないことがほとんどです。まれに動脈瘤が脳神経を圧迫して症状を出すこともありますが、一般的には無症状で、検査をしないと動脈瘤は見つからないということを知ってください。
では脳動脈瘤は年間何パーセントぐらいの確率で破裂するのでしょうか?通常は、年間0.5%から1%ぐらいです。ただし、動脈瘤が大きいほど破裂率は高くなりますし、経過観察中に増大した場合には極めて破裂率が高いことがわかってきました。また、破裂しやすい場所(前交通動脈や内頚動脈-後交通動脈分岐部など)や破裂しやすい形(いびつな形、コブにさらに小さなコブができている場合)もあります。
ではここで脳動脈瘤の生涯の推定破裂率を計算してみましょう。
例えば、50歳の女性に動脈瘤が見つかったとします。女性の平均寿命は80歳後半ですから、余命は30年以上あるはずです。その人の動脈瘤の年間破裂率が0.5%とすると、0.5% × 30年 = 15% となり、生涯の推定破裂率は約15%ということになります(これよりも低くなるとする報告もあります) 。
一方、動脈瘤が大きくて年間破裂率が3%の場合には、3% × 30年 = 90% となり、生涯の推定破裂率は90%となります。
同じように動脈瘤が見つかっても、こんなに破裂率が違うんですね。
もちろんこんな単純計算で未来の破裂率が正確に分かる訳ではありません。しかし治療を受けるかどうかの一つの判断材料にはなるでしょう。
以上のように脳動脈瘤が見つかったからといって、すべての人に治療が必要なわけではありません。まずこれを知っていただきたいと思います。

治療方法

未破裂脳動脈瘤には、3つの選択肢があります。
1.経過観察(様子を見ること)
2.開頭手術(脳動脈瘤クリッピング術)
3.脳血管内手術(脳動脈瘤コイル塞栓術)

1. 経過観察(様子を見ること)

未破裂脳動脈瘤では半年か1年ごとに、外来でMRIを行って、動脈瘤の形が変化したり、増大していないか確認します。
しかし、定期検査を行っても破裂を予防できるわけではありません。そのままのサイズ・形のままで破裂してしまうことが多いからです。経過観察を選択する場合には、このことを認識すべきです。

2. 脳動脈瘤開頭クリッピング術

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頭の骨をあけて顕微鏡を使って脳のすきまを広げ、動脈瘤の根元にクリップをかける方法です。従来から行われてきた方法ですが、開頭手術には、「怖い」、「痛そう」というイメージがあるかもしれません。しかし、どのような形の脳動脈瘤も処理でき、再発が少ないというメリットがあります。経験の多い術者であれば、ほとんど脳を傷つけずに動脈瘤の処置が出来ますので治療成績は極めて良好です。また、再発率が低いため、退院後の外来通院が短期間で不要となることもこの治療の利点です。ですから現在でもこの開頭手術は治療の重要な選択肢の一つとなっています。

方法:頭蓋骨の一部を開けて、脳と脳のすきまを分けて動脈瘤を露出し、その根本にクリップをかけます。当施設では、髪の毛は全く刈らずに手術をしています。このためすぐに外出などが可能となります。これまでにこの方法で2千人以上治療しましたが、術後の感染もほとんどありません。

手術中の検査

当施設では後遺症を出さないよう、さまざまな術中モニタリングを行っています。

MEPモニタリング

術中に患者さんに麻痺が出ているかどうかを調べる検査です。この検査は麻酔がかかった状態でも患者さんの運動機能を調べることができます。

超音波検査

血管の中の流れを超音波で調べます。音と波形で流れているかどうかが確認できます。

蛍光色素での検査

手術中に蛍光色素を注射し、顕微鏡で血管の中の流れを画像化します。細い枝でも、血液が流れているかどうかがはっきりと映し出されます。

以上の3重チェックによって、当施設の治療成績は極めて良好に維持されています。

クリッピング術が難しいケース

クリッピング術が困難な場合には、動脈瘤ができている血管自体をしばって、血流を止めてしまう手術が行われます。そうすれば当然、動脈瘤はしぼみますが、術後すぐに脳梗塞になってしまう人もいます。このため、目的の血管を風船で止めるテスト(バルーン閉塞テスト)を行って、血流を止めるとすぐに麻痺が出るような場合には、手首などから血管を採取し、首から頭まで迂回路(バイパス)を作ります。そして、その後に血管を止めれば、動脈瘤はしぼみ、脳にはバイパスから血が流れることになります。このような治療が大型・巨大脳動脈瘤に行われてきましたが、大掛かりであるため、最近ではフローダイバーターに変わりつつあります。

3. 脳動脈瘤コイル塞栓術

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頭をあけることなく脳動脈瘤が治療できるため、体にやさしい治療です。カテーテル (細い管)を脳動脈瘤の中に入れ、コイルを詰める治療です。ステント (金属メッシュの筒)を併用することで入口の広い動脈瘤も治療が可能となりました。

カテーテルを使った体に優しい治療で、局所麻酔でも可能です。体にメスを入れずに動脈瘤が治ってしまうため、多くの方がこの方法を希望されます。
太めの管を足の付け根から首のあたりまで入れます。そしてその中に細い管(マイクロカテーテル)を入れて、脳動脈瘤の中まで進め、コイル (プラチナの糸のようなもの)を何本も入れて詰めます。

適応

コイル塞栓術においては、動脈瘤の入口(ネック)の広さが、その難易度に影響します。というのも、動脈瘤の入口が狭い場合には入れたコイルが上手く収まるため治療しやすいのですが、入口が広いとコイルが正常血管に出てきてしまうからです。以前は、こういったケースには開頭手術しかできないとされてきましたが、現在ではステント(金属のメッシュの筒)の導入によって治療ができるようになりました。脳動脈瘤塞栓用のステントはとても柔らかく、自己拡張型です。マイクロカテーテルから出ると自動的に広がり、動脈瘤の入口をメッシュでふさぐため、動脈瘤内に安全にコイルを入れることができます。
このように最近では入口が広い動脈瘤もステントを使えば治療ができるようになりましたが、留置したステントに血栓が形成されないように最低でも12ヶ月間は、血液をサラサラにする薬(抗血小板薬)を内服する必要があります。
以上のように、コイル塞栓術の適応は徐々に拡大しつつありますが、さまざまな条件を考慮して適応を考える必要があります。

コイル塞栓が難しい症例

この治療が苦手とするのは大型・巨大脳動脈瘤です。10㎜以上24㎜までを大型、25㎜以上を巨大動脈瘤といいますが、こういった大きな瘤は脳の神経を圧迫して、脳神経の麻痺をきたすことがあります。例えば、眼を動かす神経に動脈瘤が当たれば、「物が二重に見える」、「まぶたが下がる」といった症状が出ます。そのような動脈瘤においてはコイルをつめることでかえって症状を悪くしてしまうことがあります。
そこで最近開発されたのが、目の細かいステント、フローダイバーターという器具です。
その詳細については 「フローダイバーター」の章を参照してください。

以上、未破裂脳動脈瘤の治療について説明しました。